「羽久が私に失礼なこと考えてる気がするけど、今はこのケーキを一緒に食べることを優先しよう」

「あっそ」

「これね、凄いんだよ。王都セレーナにある王室御用達洋菓子店の、期間限定数量限定のホワイトチョコレアチーズケーキ!」

ででん、とばかりに、シルナはケーキの乗った皿を見せてきた。

そこには、チョコレートとは思えない真っ白なチーズケーキ。

ホワイトチョコレアチーズ…。そんなケーキがあるのか。

しかも、王室御用達?…期間限定?

「何だかよく分からないけど…。よくそんな珍しいケーキが手に入ったな」

コネか?学院長のコネでも使ったのか?

「これね、リューイ君が手に入れてくれたんだー」

「この程度、お安い御用です」

と言って、澄ました顔の天使。

ふーん…こいつが?

「…毒でも入ってんじゃねぇの?」

よくもまぁ、敵が持ってきたケーキをホイホイ口に出来るな。

並大抵の毒じゃシルナを殺すことは出来ないとはいえ、ナジュと違って不死身じゃないんだぞ。

「心配要らないと思うよ。パッチテストしてみたけど、毒物の反応はなかったし」

「味もふつーだしねー」

俺より遥かに毒に精通してる令月とすぐりは、平然とホワイトチョコレアチーズケーキにぱくついていた。

お前らが大丈夫だって言うなら、大丈夫なんだろうが…。

「心配されなくても、聖賢者殿に毒を盛るような真似はしませんよ」

と、リューイ。

悪いけど、敵の言うことを鵜呑みにするほど俺は甘くないからな。

シルナは簡単に騙せるし、ケーキの一個や二個で簡単に懐柔出来るかもしれないが。

俺はそう簡単には騙されない。

「でも、詐欺に遭う人は大抵そう思ってるものですよ?」

うるせぇぞ、ナジュ。

「最悪、ナジュは毒でも死なないからともかく…。天音も、普通にケーキ食べてるし…」

「ぎくっ…」

怖いもの知らずのナジュは勿論、天音まで、シルナに勧められるままにチョコレアチーズケーキを食べている。

お前まで。警戒心を何処に忘れてきたんだ?冥界か?

「で、でも、舌が痺れるとか吐き気とかもないし。毒は入ってなさそうだよ。それに、王室御用達だけあって、これ凄く美味しい」

そうやってケーキの甘さでつけ込んでおいて、後で背中から刺してくるつもりなんだろ?

敵の手管にハマってどうするんだよ。

しかも。

「そうだよ。天使にも神竜族にも人間にも罪はあるけど、でも食べ物に罪はない」

「…マシュリ…」

とか言いながら、リューイに差し入れしてもらった、猫用ちゅちゅ〜る(プレミアムマタタビ味)を、ぺろぺろと舐めるマシュリ。

…良いか、マシュリ。この天使共に殺されたお前こそ、誰よりもリューイを警戒していないといけないんだぞ。

「このプレミアムなマタタビの、奥深い味と香り…。幸せ…!」

「…」

駄目だ。完全に、マタタビの魔力に取り憑かれている。

…なぁ。まともに危機感を抱いてる奴、俺の他にいないのか?