10分ほどで、シルナはお盆にマグカップを乗せて、いそいそと戻ってきた。

「お待たせー。はい、羽久達の分もあるよー」

何で俺達のまで?

しかも、俺達の分までホットチョコレートだし。

…甘くない、熱い紅茶とかが良かったな…。

しかし。

「はいっ、羽久。どーぞ」

「…どーも…」

満面の笑みでマグカップを差し出すシルナの顔を見ていると、文句は言えなかった。

…嬉しそうで何より。

「さぁさぁ、おやつ食べよー。おやつ」

「学院長先生、おやつを食べながら、宿題教えてもらえませんか?」

「あ、私も」

どうやら、生徒達はそれが目的だったらしい。

おやつも食べたいけど、ついでに宿題も教えてもらおうと。

一石二鳥だな。

すると、耳聡いイレースが眉をひそめた。

「あなた達。順序が逆でしょう。出歩くのは宿題を終えてからにしなさい」

さすが元鬼教官。厳しい。

宿題をやらずに学院長室に遊びに来るなど、言語道断と言わんばかり。

しかし、シルナは鬼教官イレースにも怯まず、そんな生徒達を庇った。

「はい!セーフ!うちの学院ではセーフ!」

「何がセーフですか」

「宿題をやる前に糖分補給をすることで、より勉強に集中出来るようになると思うんだよ、私は。ねぇ羽久」

俺に同意を求めるな。

「そんな訳で、セーフ!宿題はおやつを食べてからにしよう!はいっ、チョコマカロンどうぞー」

…宿題を後回しにして、率先してチョコマカロンを勧める学院長。

これが国内最高峰の魔導学院の学院長だ。世も末だな。

「ちっ…。この自堕落パンダ学院長…」

イレースは舌打ちしていたが、生徒が遊びに来てくれて嬉しいシルナは、全く気づいていなかった。

まともに怒る方が疲れるぞ。

「菓子を食べながら勉強するなど、不真面目にも程があります」

怒るイレースに、天音とナジュが宥めにかかった。

「ま、まぁまぁ、イレースさん…。たまには良いんじゃないかな。甘いもの食べると捗るって言うし…」

「そうそう。この程度、今に始まったことじゃないじゃないですか。そんなことで目くじら立ててたら、白髪が増え、」

「…丸焼きになりたいんですか?」

ギロッ、と鬼教官の鋭い眼光を向けられ、ナジュはスッ…と目を逸らし、

あろうことか、天音を指差して責任転嫁した。

「…って、天音さんが言ってました」

「ええっ!?」

…ナジュ。お前って奴は。天音を売るな。

「…はぁ。ったくやれやれだな…」

傍から見ると滑稽極まりないだろうが、こんな他愛無いやり取りが出来るのも、皆が無事でいるからこそ。

出来ることなら、この平和な日常を壊されず、ずっと守っていきたいものである。