「お前のご主人様が何を考えているにしても、マシュリを殺した張本人だってことは忘れないからな」

それはそれ、これはこれだ。

進んでやろうと渋々だろうと、殺人は殺人だから。

マシュリを殺された恨みは忘れない。決して。

生き返ったから良いじゃないか、って?そんなはずがあるか。

マシュリが受けた痛み、俺達が冥界遠征で味わった苦労は、そんなことで帳消しには出来ないからな。

すると。

「ま、まぁまぁ、羽久。リューイ君も本意じゃなかったって言ってるんだし。そんないがみ合うのはやめよう」

シルナが、俺とリューイの間を取り持つようにそう言った。

何だと?

こいつはまた、敵相手に呑気なことを…。

「シルナ、お前分かってるのか?こいつらはマシュリをやった張本人なんだぞ」

「分かってるよ。でも、それだってリューイ君達の本意じゃなかったって言ってるし」

だから何?

通り魔に襲われて、「済みません本意じゃなかったんですけど」も言われても、お前は同じことを言うのか?

「それに、今は私達を背後から襲う気はないって言ってるよ。信用しても良いんじゃないかな」

「お前って奴は、また甘っちょろいことを…」

「ほらほら、羽久。チョコでも食べて。きっと頭に糖分が足りてないから、疑ったりイライラしたりするんだよ」

関係ねーよ、そんなの。

何でお前は、こんな時に呑気にチョコ食べれるんだ。

「ほらっ、羽久。今日のおやつは、チョコレートがけポテトチップスだよ」

と言って、シルナはチョココーティングされたポテトチップスがたっぷり入った袋を差し出した。

…普通のポテトチップスにしてくれよ。何でチョコがけ?

「チョコレートの甘さと、ポテトチップスの塩気が絶妙にマッチして、癖になる味だね!」

シルナ、ご満悦でチョコポテチを摘まむ。

…その緩みきったアホ面を見てたら、俺が一人で悩んでるのが馬鹿らしくなってくるな。

「羽久が私に失礼なこと考えてる気がするけど…。チョコポテチが美味しいから良いや…」

「あっそ」

「そんな訳で、羽久もどーぞ、ほら。リューイ君もどうぞ」

敵にポテチを送るな。

するとリューイは、そんなシルナをじっと見つめ。

「…あなたはイーニシュフェルトの聖賢者なのに、どうしてそうも、」

と、何かを尋ねようとしたその時。

学院長室の扉が、コンコンとノックされた。

「学院長先生。こんにちはー」

「入っても良いですか?」

どうやら、生徒が訪ねてきたようだ。