しかし、リューイは俺の挑発には乗らなかった。

「私の役目は、あなた方を観察することです。それ以上でもそれ以下でもありません」

ふーん。

「観察するだけ…とか言って、いつ心変わりして襲いかかってくるか、俺達としては気が気じゃないんだが?」

今は観察目的だから、俺達に手を出すことはないし、イレースの仕事を手伝ったり。

マシュリやシルナを餌付けして、いかにも自分は無害ですアピールをしてきてるが。

お前の意志が自分ではなく、ご主人様の智天使様にあるのだとしたら。

智天使様が「やっぱり始末しましょう」と命令したら、突然背後から襲いかかってくるってことなんだろ。

全然安心出来ない。
 
するとリューイは、そんな俺の考えを見透かしたように。

「先程も言った通り、智天使様は突然あなた方の背後を襲うような真似はなさいませんよ」

「あっそ。悪いが、俺はその智天使様とやらに会ったことがないんでな。会ったこともない奴、おまけにマシュリを殺した奴を、そう簡単に信用する気はない」

マシュリを殺したように、今度は俺やシルナ達を殺しに来ないと、何で言い切れる?

しかし、リューイは静かに頭を横に振った。

「誰よりも智天使様のお傍にお仕えしている私が保証します。智天使様は、後ろから襲いかかるような真似はしません」

「マシュリを襲った癖に、どの口が言ってんだ?」

「それは…。…智天使様の本意ではありません。あの方は最後まで食い下がっておられました。自分達が手を下すのは最後の手段にすべきだと、ずっと…」

…食い下がってた?最後の手段?

「智天使様の意志じゃないなら、誰の意志だよ」

「智天使様と同じ、二人の上位天使。熾天使様と座天使様です」

…さっきも言ってたな。その名。

三大天使だっけ?熾天使、智天使、座天使の三人…。

で、リューイが仕えてるのは、そのうちの一人、智天使様であって。

つまりリューイにとって熾天使と座天使は、自分の主人の同僚みたいな関係ってことか。

天使も色々複雑だな。

「智天使様は、手荒な手段を使うことを望んでおられませんでした。ですが、熾天使様と座天使様…あのお二人は、上位天使の権威を示す為、そして我らの想像主たる聖神ルデス様の為なら、いかなる犠牲を払おうとも気になさらない」

「…」

「智天使様は決して、憎しみの為に神竜殿を殺そうとしたのではありません。…智天使様とて、あのような真似はしたくなかったのです。…それは分かってください」

…あっそ。

だから何なんだ、と言いたいところだが…。

「確かにあの人、僕を殺す時、凄く申し訳無さそうな顔で謝ってたよ」

と、猫缶を舐めながらマシュリが言った。

ふーん…そうなんだ。

…まぁ、それじゃあ、悪意がないのは確かなんだろう。

殺したくて殺したんじゃない。心の中では平和的に解決出来る手段を探している。

しかし、同僚である他の二人の上位天使、熾天使と座天使の二人は、強硬策を訴えた。

その二人に押し切られて、渋々マシュリを手に掛けた。

…知ったことかよ。そんな天使の事情。