「履き違えんじゃねぇ。天使共がどんな理屈をつけようが、マシュリの命を奪おうとしたのはシルナじゃなくて、天使共だろ」

その天使が目の前にいるのに、言いたい放題である。

知ったことか。天使の事情など。

お前らに天使の事情があるように、こっちも人間の事情ってもんがあるんだよ。

「僕は、シルナのせいで殺されたなんて思ってないよ」

と、マシュリはもらったばかりの猫缶をぺろぺろ舐めながら言った。

ほら。マシュリ本人もこう言ってる。

あとマシュリ、猫缶食べるなら、いろり形態で食べろよ。

人間の姿のまま猫缶舐めてるから、猫の餌を夢中で食べてるやべー奴にしか見えない。

「好き勝手言いやがって。シルナが裏切り者だと?仮にそうだったとして、天使ごときにシルナを裁く権利があるか」

思い上がんなよ。

偉そうに天使様を気取るなら、シルナに神殺しの魔法など使わせず、自分達の手で邪神を滅ぼせば良かっただろ。

「天使が無能だったから、シルナが代わりに仲間を犠牲にして、聖戦を終わらせてくれたんだろ。その恩も忘れて、偉そうにシルナを裏切り者呼ばわりしてんじゃねぇぞ」

「…羽久…」

「…成程。そういう考えもありますね」

自分のご主人様を言いたい放題侮辱されて、さすがのリューイも激高するかと思いきや。

意外と、リューイは冷静だった。

「間接的にとはいえ、聖賢者殿のせいで命を奪われたというのに、なおも聖賢者を庇うとは…」

「だから、シルナのせいじゃないって言ってるだろ」

「あなた方も同じ考えですか?聖賢者殿が憎いとは思わないのですか」

リューイは、今度はイレースや天音達に尋ねた。

…何だと?

「考えたことはないのですか。この男がいなければ…と」

「そんなこと、毎日のように考えてるに決まってるでしょう」

ばっさりと切り捨てるように、イレースがそう言った。

マジかよ、イレース。

そこは嘘でも、「そんなこと考えたことありません」と言うところだろ。

「やはり、そうですか。聖賢者殿がいなければ、今頃あなたは争いに巻き込まれることもなく…」

「えぇ、毎日思ってますよ…。このパンダ学院長がさっさと引退してくれれば、乱れきった学院の風紀を正し、規律正しい学院に作り変えることが出来るのに、と」

…え。

「そ、それじゃあ…イレースは何も、シルナの存在ごと消えろって思ってる訳じゃなくて…」

「存在ごと消えられたら、むしろ困ります。こんな愛嬌のないパンダでも、一応パンダですからね。客寄せ、ならぬ受験生寄せくらいにはなりますから」

客寄せパンダってか。そういう意味なのか?

「そもそも、この学院長がいなかったら、私はイーニシュフェルト魔導学院には来ていません。それでは本末転倒でしょう」

…そうだよな。

シルナと出会ってなかったら、イレースは多分、今でもラミッドフルス魔導学院にいて…。

…情け容赦なく、生徒を退学祭りにしていただろう。

ラミッドフルス魔導学院の生徒の為にも、イレースはイーニシュフェルト魔導学院に来て良かったとも言える。