こいつ、本当に天使なのか?

めちゃくちゃ有能なんだけど。

…つーか、令月はいい加減、鉛筆を使えよ。

「凄いねー…。リューイ君、何もかも完璧だ…」

これには、シルナもびっくり。

「あぁ…。まさかこうなるとは思ってなかったな…」

事の発端は、つい昨日。

自称大天使のリューイが、俺達の観察の為にイーニシュフェルト魔導学院に留まることになって。

そんなリューイに、イレースが言ったのだ。

「学院に居候する気なら、少しは学院の業務を手伝いなさい」と。

仮にも天使に仕事を押し付けるなんて、イレースの肝の太さには脱帽だよ。

しかもリューイも、嫌な顔一つせず「分かりました」と了承した。

そこは「天使が人間の仕事などするか」と逆ギレするところでは?

そして、イレースが遠慮なく押し付けた仕事を、リューイは難なく、迅速に、完璧に終わらせてみせた。

ついでに、イレースに頼まれた業務だけではなく、俺達の仕事まで先回りしてこなしてくれた。

この天使、有能だぞ。

「あぁ、リューイさんが手伝ってくれるお陰で助かりますね。何ならずっと学院に居て欲しいものです」

この事態を一番喜んでいるのは、仕事人間のイレースである。

利用出来る者は、天使だろうと何だろうと遠慮なく利用する。

イレース、お前はさすがだよ。

「そこにいる、菓子を摘まむしか能のないパンダ学院長にも見習って欲しいものです」

「うぐっ…」

…言われてるぞ、シルナ。

事実だから言い返せないな。仕方ない。

…すると、そこに。

「戻ったよ」 

「あ、いろり…。じゃなくてマシュリ」

窓の外から、しゅたっ、と猫が一匹入ってきた。

勿論、猫のいろり形態に『変化』したマシュリである。

室内に入るなり、『変化』してマシュリの姿に戻った。

「久し振りに会ったから、生徒達にもみくちゃにされたよ」

「だろうな…」

お前がまた居なくなったからって、生徒も随分心配してたんだぞ。

やっといろりが帰ってきたって、今日は一日中、生徒達はその話で持ちきりだった。

もうどっか行くなよ。俺達も、生徒達も心配するんだからな。

「神竜殿…」

「…」

リューイとマシュリが、互いに顔を見合わせていた。

…非常に気まずい雰囲気。

マシュリにしてみれば、リューイは自分を殺した相手…の、部下。

仇も同然の存在なのだ。

そりゃあ、リューイが学院に留まることに良い気はしないに違いな、

「神竜殿。お近づきの印に…と言うのもなんですが、よろしければこちらを」

と言って、リューイは何もない空間から、一つの缶詰めを取り出した。

…何だあれ?