「ふむ、成程。炎魔法の基礎魔導理論ですか…。良い出題範囲です」

「…」

「平均点は60.5点。百点満点の平均にしてはやや低めですが、この出題範囲の広さと、重箱の隅をつつくような問題の数々を思えば、これでも高い方でしょう」

「…」

「気になるのは、まず、この問6の問題。全体の正解率が15%を切っています。この設問に関しては、生徒の理解度の低さが疑われます。授業で改めて復習するべきでしょうね」

「…」

「それから、こちらの問13の設問。所謂引っ掛け問題ですが、全体のほぼ半数に当たる48%が誤答しているようです。こちらも要復習箇所ですね」

「…」

「こちらが、今回の小テストの全体の平均値、中央値。更に設問ごとの平均点と中央値の一覧表になります。また、過去に行われた小テストの結果と比較した表になります。どうぞ、ご参考までに」

「ありがとうございます」

リューイが差し出した書類を、イレースはサッと受け取った。

「非常に見やすいですね。それに、採点も完璧です」

「勿論です。この程度、天使たる私には容易いこと」

「そうですか。じゃ、『高度雷魔法応用Ⅰ』の授業で来週実施予定の小テストの問題作り、あなたに任せても?」

「ほう、雷魔法応用…。良いですよ。お安い御用です」

「頼みますよ」

リューイは、イレースに雷魔法魔導理論の教科書を渡され、それをぺらぺらと興味深そうに眺めていた。

…。

…それから。

「えぇっと…。そろそろ、保健室の備品の発注を…」

「あぁ、それなら既に終わらせておきましたよ。回復魔導師殿」

「えっ」

リューイは、几帳面な字で記入済みの備品の注文書を、天音に手渡した。

「消毒液、脱脂綿、胃薬と頭痛薬を数種。それから保健室の新しいベッドのシーツを3組。衛生用品その他…」

「す、凄い。注文しようとしてたもの、全部書いてある…!」

「既に発注済みですから、来週頭には学院に届くでしょう」

「ありがとう、リューイさん…!」

…。

…更に。

「読心魔導師殿。今週末が締め切りだった、魔導教育委員会に提出予定の『全国風魔法教員の為の意見書』、記入して提出しておきました」

「おぉ、面倒臭いからって後回しにしてたアレ、書いてくれたんですね。ありがとうございます」

「元暗殺者殿。園芸部の葉物野菜の苗、虫除けネットをかけておきました」

「へー、ありがと。明日にでもやらなきゃって、ツキナが言ってたんだよねー」

「小太刀使いの方の元暗殺者殿。明日の授業で使う墨をすっておきましたよ」

「本当?あれ、毎朝するの大変なんだよね。ありがとう」

上から順に、ナジュ、すぐり、令月の3人である。

…。

そして、極めつけは。

「時魔導師殿」

リューイは、くるりと俺の方を向いた。

「…何だよ」

「明日の授業で使う資料、まとめておきました」

と言って、リューイは完璧な、非の打ち所のない手書きの授業資料を差し出した。

…俺が普段作る資料より、分かりやすいまである。

…さっきからさぁ…。イレースに頼まれた小テストの採点とか。

天音の備品の注文書とか、ナジュの魔導教育委員会に提出する意見書とか。

園芸部の虫除けネットとか、令月の墨とか。

…俺の、授業用の資料とか…。

…さてはこの天使、出来る…!?