「…その様子だと、会談は上手く行かなかったようだな」

「うーんと…。上手く行かなかったと言うか…うん、まぁ、そうだね…」

ほらな。言わんこっちゃない。

「何でもっと早く言わないんだよ、お前は…!」

明らかに、チョコどら焼きより大切なことだろ。それ。

しかし。

「別に良いじゃないですか。『あの』アーリヤット皇王相手に、無傷で帰ってきたんだから」

と、ナジュ。

はぁ?

「僕もそう思うよ。ナツキ皇王のことだから…変な気を起こすんじゃないかって心配だったけど。大丈夫だったみたいだね」

マシュリまで。

「素直に会談に応じる振りをして、罠でも張ってるんじゃないかと思った」

「意外とそーでもなかったみたいだね。観念したのかなー?」

令月とすぐりが言った。

罠…罠、なぁ。

俺も、それを心配していたんだが…。

無事に帰ってきているところを見ると、俺達が危惧していたようなことはなかった…。

と、考えて良いのか?

「…で、フユリ様はナツキ様とどんな話してたんだ?」

って、これ聞いても良いことなのか?

国の代表同士の対話だからな。

一応…国家機密…に当たるのだろうか。

「えぇっと…。差し支えのない範囲で教えてくれ」

「大丈夫、フユリ様の了解は得てるよ…。私達は決闘の当事者だから、知る権利があるって」

そうか。それは良かった。

相変わらず、話の分かる御方だ。王者としての器量がある。

「大した話はしてないんだよ…。フユリ様は冷静に話したかったと思うんだけど…如何せん、ナツキ様がずっと喧嘩腰で…」

「…だろうな…」

あのナツキ様に限って、心を入れ替えてフユリ様と協調路線を…なんて、可愛げのあることを言い出すとは思えない。

フユリ様とは正反対で、話の分からない人だ。

「バチバチ火花を散らしてて…。…正直、凄く気まずかった」

「…そうか」

「私に対しても、何でお前がいるんだって睨まれて…居た堪れなかったよ」

シルナの本音が出たな。

成程、帰ってきてすぐ話をしなかったのは、そのせいか。

ナツキ様に睨まれて、ちょっとしょげてたんだな。

そうとも知らず、心の中で散々能天気だ何だと馬鹿にして悪かっ…。

頭の中に、チョコどら焼きを頬張るシルナの顔がよぎった。

…いや、やっぱり能天気だわ。

あの顔は、能天気以外の何物でもない。

「羽久が…私に失礼なことを考えてる気がする…」

「良いから。ナツキ様はなんて?」

「肝心なことは何も…。だけど、気になったのは…」

「…何?」

「ナツキ様がうっかり口を滑らせたんだけど…その時に言ったんだ。決闘で負けたことは想定内で、次の矢は既に用意してある…って」

「…」

…めちゃくちゃ重要なことじゃないかよ。

なぁ。それ、明らかにチョコどら焼きより優先すべきだったよな?