脅すだけだと思っていたのに、本当にやったぞ。この二人。

指を折るだけならまだしも、手首を落とすのは完全に殺しにかかってるな。

さすが元暗殺者。敵に容赦がなさ過ぎる。

「あぁっ…!?なんてことを…!」

手首を落とされ指を折られた本人より、シルナの方が動揺していた。

「やり過ぎだよ、いくらなんでも…!」

「やれって言われたからやっただけだよ」

「そーそー。学院長せんせーもいつも言ってるじゃん。嘘をついたらいけません、って」

だから有言実行しました、ってか?

これには、さすがに謎の男も少しは動揺するかと思ったが。

「やり過ぎ…か。この程度でやり過ぎとは…。随分とお優しいことで」

とか何とか言って、床に転がった自分の手首をひょいっと拾い上げ。

切り落とされた切断面に、ぐっとくっつけた。

「…!」

たったそれだけで、接着剤でもつけたように、手首が繋がった。

…なんていう再生速度だ。

令月に切り落とされたんだぞ?

この再生速度…。ナジュ以上…マシュリにも匹敵する。

ということは、こいつはやっぱり冥界から来た魔物…。

「お前…魔物なのか。なんていう種族だ…?」

「魔物…?まさか。あのような下等種族と一緒にしないでください」

手首をくっつけた謎の男は、今度は折られた指を元通りに治しながら言った。

「魔物じゃないなら、お前は何だ」

「ご心配なく。私は皆さんの敵ではありません。争う為ではなく、親交を深める為にここに来たのです」

「はぁ…?」

親交を深める為?

それって、どういう…。

「さて、余興はこのくらいで結構」

謎の男は、そう言うなり。

パチンと指を鳴らして、マジックのように白いテーブルクロスを開いた。

…は?

な、何をするかと思えば…。

「では、早速お近づきの印に、こちらをどうぞ」

爆弾でも押し付けてくるのか、と思いきや。

その男は、大きなケーキボックスを置いた。

な、何だ?それ…。

「…!その箱のロゴ…。ま、まさか…!」

真っ先に反応したのは、シルナだった。

「知ってるのか?シルナ…」

「そ、それは…。いや、まさか。でも、そんなはず…!」

めちゃくちゃ動揺している。シルナが。

何なんだ。やっぱり、冥界の魔法道具とか、

「そう、ご明察です聖賢者殿。こちらは、ルーデュニア聖王国王都セレーナより遥か南、南方都市リオンの老舗チョコレート店で販売されている、チョコスフレケーキです」

は?

「そ、そんな…!まさか、あそこのチョコスフレケーキは週末限定、しかも一日に僅か10個しか販売してなくて、取り置きも予約もない早い者勝ちだから、王都に住んでる私には、とても手に入らなくて…!だから長い間ずっと諦めてたのに…!」

「お近づきの印と思えば、この程度容易いものです。喜んでいただけましたか?」

「えっ。食べて良い?このチョコスフレケーキ、私食べても良いのっ?」

「勿論です。聖賢者殿に召し上がっていただく為に調達したのですから」

「わぁい!ありがとう!君は私の恩人だよ…!」

「そうですか。それは何より」

…えーと。

…話についていけなくなってきたんだけど?