「…成程。素晴らしい仲間愛です」

…何だと?

「あの方の仰る通り…。あなた方の行動原理は、邪神への信仰心でも、破滅に導く知的好奇心でもない…。ならば、何の為に神に抗う道を…」

「…何をごちゃごちゃ言ってんだ」

どうでも良いだろ。そんなこと。

お前が、再びマシュリの命を奪おうとしているのなら。

そんなことは決してさせない。その前に、俺達でこいつをやっ、

「待って。違う」

「はっ?」

マシュリだった。

「あの時、僕を殺しに来たのはこの人じゃない…!」

えっ…。

どういうことだ?でも、こいつ人間じゃないんだろ?

いかにも人間っぽい見た目をしてるけど、多分マシュリと同じで、元々人間じゃないのに人間の振りして…『変化』してるだけで。

それに、こいつ自身が今言ったじゃないか。

マシュリを殺したのは自分だ、って…。

「どういう…ことだ?お前、マシュリを…」

「手を下したのは私ではありません。が、あの御方の意志は私の意志。つまり、そこにいる神竜殿を殺したのは私です」

あぁ、そう。ふーん。

…それ、説明になると思ってるのか?

「全く意味が分からねぇな…。口を割りたくなるようにしてやろうか?」

多少手荒い方法を使ったとしても…洗いざらい全部喋ってもらうぞ。

マシュリを殺した犯人…じゃないとマシュリは言ったが。

少なくとも、マシュリ殺害の犯人の関係者であることは確かだ。

だったら、こいつを締め上げれば、真犯人の素性が分かるってことだろ?

手荒い真似をするのは好きじゃない。けど…。

…それが仲間を守る為なら、こっちだって手を汚す覚悟はある。

「…」

俺は、令月とすぐりに無言で目配せした。

二人は、すぐに俺の意図を汲んでくれた。

「…ちょっと痛い目を見たら、話したくなるかな?」

「とりま、指2、3本行っとこうか」

令月の小太刀が、男の左手首に薄っすらと切り傷を作り。

すぐりの糸が、男の右手の人差し指と中指、薬指に絡みついた。

二人の放つ殺気は、まさに暗殺者のそれである。

仲間である俺でも、震えが来るほど研ぎ澄まされた殺気。

素人なら、一瞬で卒倒しかねない気迫だ。

それなのに、謎の男は薄っすらと微笑みさえ浮かべていた。

…あまりにも余裕が過ぎるぞ。

それどころか。

「どうぞ、お好きなように」

やりたきゃ勝手にやれ、と言わんばかりの態度と台詞。

何なんだ、この余裕は…。

「ふーん…。そう」

「それじゃー…」

「ちょ、令月君。すぐり君、駄目だよ。ちょっと落ち着、」

「えい」

「よっ」

シルナが制止するのも聞かず。

令月とすぐりは同時に動いた。

令月の小太刀の刃が、男の左手首を切り落とし。

すぐりの糸が、男の右手の指を3本、あらぬ方向にポキリと捻り上げた。

…マジでやりやがった。