誰よりも真っ先に動いたのは、元暗殺者組の令月とすぐりだった。

さすがと言うべきか、目にも留まらぬ速さだった。

一瞬の後には、男の首に令月の小太刀が、そしてすぐりの糸が絡みついていた。

一歩、どころか半歩でも動いたら、二人の鋭い刃が、男の首を豆腐のように切り落とす。

令月とすぐりに遅れて、俺達も臨戦態勢を取った。

「お前…!どっから入ってきた…!?」

まるで気配を感じなかった。

足音の一つも聞こえなかった。

俺だけじゃなくて、暗殺者である令月とすぐりまで、姿を見るまで気付かなかったのだ。

今だって、目の前に居るはずなのに、まるでマネキン人形を相手にしているかのように…。

こいつ…本当に人間か?

「人間じゃありませんよ、この人」

険しい表情をして、ナジュがそう言った。

えっ…。

「僕の読心魔法が通用しない。ってことは、人間じゃないってことです」

「何だと…!?」

…確か、ナジュの読心魔法は人間にしか効かないんだったな。

マシュリやリリスなどの、魔物の心を読むことは出来ない。

ってことは、こいつ…。

「こいつも魔物なのか…!?」

一体何処から。『門』を潜って来やがったのか?

マシュリの心臓を取り返しにでも来たのか。まさか、神竜族の手の者…。

「正体など、どうでも良いことです」

あれこれと考える俺をよそに、イレースは、バチバチと雷を迸らせる杖を握り締めた。

「学院に無断侵入する不届き者は、誰であろうとこの手で成敗するだけです」

強い。さすがイレース。

でも、一応相手の素性くらいは確かめてから黒焦げにしてくれよ。

うっかり学院を訪ねてきたお客さんだったらどうするつもりだ?

とはいえ、今回のこいつは、とても「お客様」には見えない。

それに今、とんでもないことを口走らなかったか?

「お前…。今、自分がマシュリを殺ったって言ったな…?」

聞き逃さなかったぞ。俺は。

…お前が何者なのかは知らないが。

マシュリを殺ったってことは、どう考えても俺達の敵だな?

それさえ分かれば充分だ。

「よくも、マシュリを…」

憎しみに満ちた敵意を向けられても、その男は飄々とした表情を崩さなかった。

随分余裕じゃないか。

「また、マシュリを殺しに来たのか…!?」

今度こそ、7つ全ての心臓にとどめを刺すつもりで…。

「…だとしたら、どうします?」

首に令月とすぐりの刃を向けられていながら、逆に挑発じみた台詞を吐いてきた。

「…決まってるだろ、そんなの」 

わざわざ聞くまでもない。

ここにいる全員の命を危険に晒してでも、苦労してマシュリを生き返らせたのだ。

もう二度と、奪われて堪るものか。

「お前を完膚なきまでに叩きのめせば、二度とマシュリに手出しは出来ないだろ?」

この世には、怒らせちゃいけない相手がいるんだってことを教えてやるよ。