マシュリが無事に戻ってきて、ホッとして脱力して。

ケーキでお祝いしたくなる気持ちも、分からんでもないが。

しかし、喜んでばかりもいられないのが現実である。

何故なら、まだ肝心なことが明らかになっていないのだから。

イレースが何を言わんとしているのかは、俺にも分かった。

そしてマシュリも、分かっていることだろう。

「…マシュリ」

「何?」

「聞いても良いか?…お前を殺った、犯人のこと」

「…」

やはり、マシュリも聞かれることを覚悟していたらしく。

いきなり俺が核心を突いた質問をしても、顔色一つ変えなかった。

「最初、俺達は神竜族だと思ってた。あつらはお前を…その、一族の恥だと思ってるみたいだったから…。そんなこと、俺達は一ミリも思ってないけど」

「気を遣わなくて良いよ。分かってるから」

…ごめんな。嫌なことを思い出させて。

「…と言うか、神竜族以外に有り得ないと思ったんだ。身体を見る限り…ほとんど無抵抗で、あまりにもあっさり…やられてたから」

「うん」

「だけど、ナジュ…と言うより、ナジュが無理矢理話を聞き出したリリスから、お前の心臓の話を聞かされて…」

「あぁ、やっぱりリリス様なんだね。その話を皆にしたのは…」

これもごめんな。聞かれたくないことだっただろうに。

「リリスを責めないでください。僕が無理矢理、ベッドに押し倒して彼女から聞き出したんです」

すかさず、ナジュがリリスを庇うようにそう言った。

それはそうなんだろうけど、ベッドに押し倒して、は余計だ。

子供いるんだぞ。令月とすぐりが。

しかし、この二人は「そういうこと」には全く縁遠いらしく。

「…何でベッドに押し倒したら、秘密を白状するの?」

「馬鹿だなー、『八千代』は。きっと弛緩剤を投与して、無抵抗の状態にして脅したんだよ」

「成程。さすが『八千歳』は頭が良いね」

二人が鈍くて助かったよ。

とんでもない誤解しているが、一生誤解したままでいてくれ。

「…で、話を戻すが…。もし犯人が神竜族なら、当然マシュリの心臓が一つ足りないことを知ってる訳で…。それなら、マシュリを殺ったのは神竜族じゃないんじゃないかって思い至って…」

「うん」

「お前が無事に戻ってきたら、それを聞こうと思ってたんだ。…マシュリ、お前は一体誰に殺されたんだ?」

マシュリは、答えを躊躇うように一瞬押し黙り。

そして。

「…それは…」

「私ですよ」

!?

マシュリが口を開こうとした、その時。



突如としてマシュリの背後に、謎の男が出現した。