全ての過ちは、古の聖戦で我らの主、聖なる神と呼ばれた聖神ルデスが、対なる存在である邪神に敗北したことに始まる。

我らの主は、邪神の魔の手から人々の、この世に生きる全ての生物の命を守る為に、自らを犠牲にした。

主が命を落としたことによって、忌まわしい邪神が世界を支配するかと思われた。

しかし、そこで思わぬ救世主が現れた。

我らの主、聖神ルデスを崇拝する魔導師の里…「イーニシュフェルトの里」に住む賢者達だ。

彼らは救世主であり、そして殉教者だった。

世界を邪神の手に明け渡すことを是とせず、聖神の偉大なる意志を継ぎ、自らの命を贄として捧げた。

そうして彼らは禁呪…通称『神殺しの魔法』を使い、主の仇である邪神を封印した。

主の仇を、神の従者である魔導師達が討ったのである。

私達もまた敬虔なる聖神の従者として、生け贄になった魔導師達を誇らしく思う。

彼らの魂が、聖神ルデスの傍らに、安らかに寄り添うことを心から望んでいる。

…だが、問題はここからだった。

あろうことか、イーニシュフェルトの里の賢者に裏切り者が出たのである。

その裏切り者の名は、シルナ・エインリー。

イーニシュフェルトの里の唯一の生き残りであり、里の仲間達から命を、未来を、希望を託された存在だった。

それなのにシルナ・エインリーは、邪神の復活を阻止するという、自らの役目を放棄した。

それどころか、憎むべき敵であるはずの邪神を守り、主に反旗を翻したのだ。

私達が目覚めてすぐ、この許されざる裏切りを知ってどれほど激怒したことか。

そして、私達が再び蘇らされたのは、これが原因なのだと理解した。

私の仲間達はすぐに言った。「裏切り者に裁きを与えるべきだ」と。

しかし、私はそれを制した。

裏切り者に情けをかけたからではない。

イーニシュフェルトの里で唯一生き残った賢者。「神殺しの魔法」の使い手ともあろう者が、聖神ルデスを裏切ったのだ。

それが許されない裏切りであることは、裏切った本人が一番良く分かっているはず。

裏切りには当然、聖なる粛清が下るであろうことも。

ならば、彼は何らかの「対策」をしているはずだった。何せ、禁呪を扱うことの出来る魔導師なのだ。

ましてや私達もまた、万全の状態ではない。

長い眠りから蘇ったばかりで、まだ充分に力を取り戻せていない。

そして私達が真に力を取り戻すには、主である聖神の復活が必要不可欠だった。

ならば、どうするか?

勿論、裏切り者の粛清を諦めた訳ではない。

直接裁きを下すことが出来ないなら、面倒でも、別の手段を取るしかない。

その為に私達は、それぞれが小さな種を蒔いたのだ。

その種がいずれ芽吹き、大輪の花となり、そしていずれ、裏切り者の首を獲る日が来ると信じて。