俺は、全速力で駆け出した。 

もう今日だけで、一体何回全力ダッシュしたことか分からんな。

これが最後だと願いたい。

しかし…。

「くそっ、一体何処まで行くんだ…!?」

マシュリの心臓は、一体何処を目指してるんだ?

さっきまで死んだように大人しく動かなかったのに、現世に戻ってきた途端に…。

その時、俺ははたと気づいた。

「…あの方向って…」

マシュリの心臓が飛んでった、あの場所。

聖魔騎士団魔導部隊隊舎の、地下を目指していた。

地下には、万が一隊員が殉職した時に使う、遺体安置所がある。

…今も、マシュリの遺体を安置している場所に。

…まさか。

「マシュリ本体を目指してるのか…」

マシュリの身体に戻ろうとしてるんだな。そうなんだろう?

行き先が分かったなら、あとは先回りするだけだ。

俺は、真っ直ぐに魔導部隊隊舎の地下を目指した。

そこには、学院から移されてきたマシュリの遺体が、寝台に寝かされていた。

「マシュリ…」

固く閉ざされた、その瞼。

死んでいるようにしか見えない。…実際死んでるんだが。

この身体に、心臓を戻したとして、果たして本当にマシュリは生き返るのだろうか。

今更だが、そんな不安に襲われた。

すると。

「うわっ…!来た…!」

先回りしていた俺に遅れて、マシュリの心臓が遺体安置所にやって来た。 

ここに来るまで、この空飛ぶ心臓を、他の隊員に見られてなければ良いのだが。

傍から見たら、正体不明の赤い石が空を飛んでいるようにしか見えないぞ。

しかし、そんな俺の心配や不安をよそに。

深紅の石のような心臓は、マシュリの身体の上で、ピタッと静止した。

…ようやく、戻るべき主の肉体を見つけたんだな。

生まれてすぐ、神竜バハムート族の手によって、身体から引き離された7つ目の心臓が。

今ようやく、マシュリの身体に戻ろうとしていた。

「マシュリ…。…!」

どくん、息を吹き返したように。

マシュリの身体が、ゆらりと宙に浮かんだ。