「じゃあ、僕稽古場に行ってきますね」

生徒に名指しされ、ドヤ顔のナジュである。

はいはい。イケメンカリスマ教師。はいはい。

「ちょっ…ちょ、ちょっと待って!」

シルナが、慌てて生徒達を止めた。

「わ、私だって実技を教えるのは得意だよ!ナジュ君にだって負けてないから!」

やめとけ、シルナ。

甘党おっさん学院長よりも、若くてイケメンな教師の方が、女子生徒に好かれるのは当然というものである。

「え?学院長先生はいいです」

「ナジュ先生に教えてもらうので」

「普段の実技授業の担当も、ナジュ先生ですし」

「また今度にしてください」

四人の女子生徒に順番に、ばっさりと切り捨てられ。

シルナ、撃沈。

やっぱり、時代はイケメンカリスマ教師だってさ。残念だったな。

教師として、シルナの教え方が下手くそだとは言わない。

シルナだって、それなりに教師歴は長いんだから、教え方のコツは分かっている。

ただ、ナジュが規格外過ぎるんだ。

何せ相手の心を読めるのだから、もうそれだけでチートみたいなものだ。

「な、ならせめて…。どら焼きを、そうチョコどら焼きを食べていって!」

シルナは涙目になって、必死に食い下がった。

せめておやつだけは、自分と一緒に食べていってくれと。

しかし。

「え?要らないです」

「お腹空いてないので」

「早く稽古場に行きたいですし」

「また今度にしてください」

四人に順番に、またしてもばっさり切り捨てられ。

シルナ、再び撃沈。

…ちょっと可哀想になってきた。

「ふふふ。残念でしたね学院長。イーニシュフェルト魔導学院イチのイケメンカリスマ教師の座は、僕がいただきました」

勝ち誇るナジュ。

ムカつくドヤ顔だなぁ…。

「それじゃ、早速稽古場に行きましょうか」

「はい!宜しくお願いします、ナジュ先生」

四人の女子生徒と共に、まさに両手に花状態で。

ナジュは颯爽と、稽古場に向かった。

…で、取り残されたシルナは。

「げ、元気出してください。学院長先生…」

「あ…天音くん〜…」

おっさんの癖に、瞳をうるうるさせるシルナ。

良かったな、天音がいて。

いつも励ましてくれてさ。

で、そんなことはどうでも良いんだよ。

「…あのさ。ナツキ様との会談…」

「さて、暇になったけどどーする?」

「園芸部の畑に行って、草むしりでもしようか」

「お、いーね。ツキナが喜んでくれるかも。じゃ、行こっかー」

チョコどら焼きを食べ終えた元暗殺者組は、窓からひょいっと飛び降りていった。

園芸部の畑に行ったと思われるが。

窓から出るな。ちゃんと階段を降りろ。

目撃した人がいたら、腰を抜かすだろうが。

あいつらもあいつらで…危機感ってものがない。

…イレースは補習授業だし、ナジュは稽古場だし。

令月とすぐりは草むしりだし、マシュリは集会だし…。

…肝心のシルナは、

「ナジュ君に生徒取られた〜っ!」

「だ、大丈夫ですよ。生徒達は皆、学院長先生のことを慕ってますから」

…生徒に相手にされなかったせいで涙目になり、天音に慰めてもらっている有り様。

…なんかもう、悩んでる自分が馬鹿馬鹿しくなってきたな。