「…二十音?…それとも羽久?」 

シルナの質問で、状況を理解した。

そうか。俺また「入れ替わって」たんだ。

「えっ…あ、ごめん…。俺、二文字の方の羽久だ」

「良かった…。戻ったんだね」

ごめん。俺、意識ぶっ飛んでたんだ。

こんな一瞬の間に…。滅多なことがない限り、「前の」俺が意識の外に出てくることはないはずなのに…。

…つまり、この場所は思わず「前の」俺が姿を現すほどにヤバい場所だってことだ。

…やっぱり、これ以上進まない方が良いのかもしれない。

「これ以上は…危険だね。令月君、すぐり君も悪いけど…」

「ちぇー。まーしょーがないかー」

「ミイラと戦うのは、また今度にしよっか」

ごめんな。

…あと、ミイラと戦うのは勘弁してくれ。

「…羽久は、あんな風に入れ替わるんだ…」

見苦しい様を晒した俺を、ベリクリーデはポツリと呟きながら見つめていた。

そのベリクリーデに、ジュリスが声を潜めて尋ねた。

「…ベリーシュ。お前は何も感じないのか?」

「私…?」

「あぁ。二十音が胸騒ぎを感じるってことは、お前も何か感じ取ってるんじゃないのか。あいつとお前は…」

「同じ神の器、だね。確かに…変な感じはするよ。上手く言葉に出来ないけど…。胸の奥を掻き乱されてるような感じ」

「…」

ジュリスは顎に指を当てて、その言葉を反芻しているようだった。

「私じゃなくて…ベリクリーデの方が敏感に感じ取れただろうね。私は所詮紛い物だから…」

「いや…充分だ」

「これ以上、進まない方が良いのは確かだよ。ここで退くのは賢明だと思う。…もう手遅れかもしれないけど」

「…?それはどういう…」

と、ジュリスが更に尋ねようとした、その時。

突然、ピラミッドがガタガタ、グラグラと振動を始めた。

な、何だ?

「ど、どうっ…したんだ?地震か…!?」

「冥界って、地震なんか起きるんですか?」

それは分からないけど。でも、現に今揺れてるじゃないか。

もしかして、ピラミッドが崩れるのでは?

「急いで外に…。…ひぇっ」

「は?」

外に出るよう皆を促そうとしたシルナが、縫い付けられたようにその場に硬直した。

な、何だよ。どうした?

「シルナ、何ボサッとしてんだ。崩れる前に、早く…」

「は…羽久…。あれ見て…」

指差すシルナの人差し指と、声が震えまくっていた。

反射的に、シルナの指差した方に顔を向けると。

ピラミッドの奥から、ガシャ、ガシャ、と歪な音が聞こえてきた。

現れたのは、さながらガイコツだった。

骨だけになった、歪な人型ガイコツ。

そのガイコツが、ガシャガシャと骨を揺らしながらこちらに迫ってきていた。

しかも、1体だけじゃない。

5体、6体…いや、もっともっとだ。20人は下らない。

…そりゃ、シルナじゃなくても悲鳴をあげるよ。これは。

俺も、今息が止まりそうになった。