俺達は、崩れかけたピラミッドの中に侵入した。

…天井が落っこちてきたり、床が抜けたりしないよな?

しかし、その心配は杞憂に終わった。

外から見ると崩れかけているが、中は意外と、まだしっかりしている。

俺達が歩いても、崩れるということはなさそうだ。

それは安心したけれど…。

「…」

ピラミッドに入ってから5分もしないうちに、俺は妙な胸騒ぎを感じた。

…凄く…嫌な感じだ。

さっき…ベリクリーデと一緒に、古代遺跡を探索していた時と同じ…。

気の所為だと思い込もうとしたが、やっぱり駄目だ。…無視出来ない。

歩き進めるに従って、その感じは段々耐え難いほど募っていった。

「…羽久、大丈夫?」

シルナは真っ先に、そんな俺の異変に気づいた。

さすがだな。

心配させたくないから、黙っていようと思っていたのに。

「あぁ…うん。大丈夫…うん、大丈夫だ」

「大丈夫そうな顔色に見えないよ。…少し休憩しようか?」

「いや…必要ない」

休んでる暇なんてあるものか。このピラミッドの中に、砂漠都市を脱出するヒントがあるかもしれないのに。

だが、この場所に入ってからずっと感じ続けていた胸騒ぎは、弱まるどころか段々と強くなっていった。

ピラミッドの中央が近づくにつれて、段々と。

「でも、様子が変だよ。もしかして…ここから先は、行かない方が良いのかも」

シルナは、そう言って足を止めた。

「行かない方が良い?…何で?羽久せんせー、この先に何かあるの?」

「分からない…。けど、物凄く…嫌な感じがするんだ。触っちゃいけないもの、見ちゃいけないものに近づこうとしているような…」

だからなんだろうか。こんなに不安な気持ちにさせられるのは。

シルナが傍にいるのだから、大丈夫なはずなのに。

ぎゅっと、胸を締め付けられるような…。

自分の胸を自分の手で押さえたその時、一時的に「俺の」意識が飛んだ。

代わりに、この身体の表に出てきたのは。

「…こわい…」

「えっ…?」

「こわい…。こわい。こわい…」

「…!」

胸を押さえて恐怖を訴える…二十音・グラスフィアに、すぐさまシルナが近づいた。

そして、安心させるように二十音の身体を抱き寄せた。

「大丈夫だよ、二十音…。私が傍に居る。私が君を守ってあげるから」

「…シルナ…。…しーちゃん…」

「心配しないで。安心して眠りなさい。大丈夫だからね」

何度もそう言い聞かせながら、小さい子供にそうするように、背中をポンポンと優しく叩いた。

そうするうちに、安心したのか、その人格は身体の奥に…意識の奥に戻っていった。

二十音の人格が引っ込むと同時に、押し出されるように俺の意識が戻った。

「…えっ。あれ…」

気づいたら、シルナが俺を抱き寄せていた。

な…何やってたんだっけ?俺…。