五日間が経過してもなお、学院長先生方が戻ってくる気配はなかった。

彼らはどうしているだろう。

私達も、他人を心配している余裕はないけれど…。

竜の祠は見つけたのだろうか。マシュリさんの心臓は見つかったのだろうか?

魔物と戦いになったりしていないだろうか。皆無事に合流出来ているのだろうか?

果たして、彼らはいつ戻ってくるのだろう。…そもそも、戻ってこられるのだろうか?

それまで、吐月さんの、私達の命が保つだろうか。

「…吐月さん…」

「はぁ…。はぁ…」

吐月さんは、私が話しかけても反応しなかった。

もう、目が虚ろになっている。

…これ以上続いたら、本当に吐月さんが死んでしまう。

だけど…学院長先生方が戻ってきた時、『門』が閉ざされていたら…。彼らは、もう永遠に冥界から現世に戻ってこられない。

冥界に置き去りにされて、そこで魔物に襲われて死んでしまうだろう。

じゃあ、どうすれば良いのか?

吐月さんが命の限界を迎えて倒れるまで、『門』を開き続けるのか?

果たして、それで学院長先生達は間に合うだろうか。

もし間に合わなかったら。先に吐月さんが限界を迎えてしまったら。

私達は吐月さんを無為に死なせ、そして学院長先生達も見殺しにしてしまうことになる。

でも、今…今吐月さんに『門』を閉じさせれば、少なくとも吐月さんだけは助かる…。

でも…もしかしたら、あと一分持ち堪えたら。いいえ、あと十秒でも持ち堪えることが出来たら。

学院長先生方は、戻ってこられるかもしれない。

今にも、この『門』を潜って戻ってくるかもしれないのだ。

その可能性を思うと、どうしても踏み切れない。

なんと残酷な取捨選択だろう。

学院長先生達を諦めて、吐月さんだけでも救うか。

このまま、一分一秒を持ち堪えて、全員救うことに賭けるか。

でも失敗してしまったら、私は吐月さんも、遠征メンバー船員の命も失ってしまうことになる…。

選べるはずがなかった。命の選択なんて、そんなこと出来るはずがない。

私だけじゃない。ここにいる全員が、同じことを考えている。

だから、皆既に限界を越えているのに、自分の魔力を使ってくれと申し出るのだ。

…仲間の命が失われる様を見るくらいなら、自分の命が失われた方がマシだから、って。

「…吐月さん。やっぱり、私が…」

覚悟を決めよう。

もし吐月さんが死ぬことがあったら、それは私の魔力を使い尽くして、私が死んだ後だ。

そう思って、吐月さんになけなしの魔力を…最後の魔力を託そうとした、





…その時だった。




「ふーん。…面白そうなことしてるね」



「…!?」

疲労のあまり、「彼」が近づいてきたことに気付かなかった。