「仲間達が、当時赤子だったマシュリ・カティアを処刑すべきと言った時…私は迷った。本当に、このまま処刑するべきなのだろうか、と。

子供は無垢な存在だ。まっさらな存在だ…。例え大罪人の血を引いていたとしても、生まれた子には何の罪もない。

だが…もし生きていたとしても、この子は生涯、呪いを受けた子として、同族からも異種族からも迫害され、何処にも居場所のない孤独を味わうことになるだろう。

生きていても苦しむだけなら、いっそこのまま命を終わらせた方が、この子の幸せになるのではないかと…。…酷く悩んだものだ」

…。

…あんた、神竜族とは思えないくらい良い奴だな。

誰もが、マシュリの罪を責めて処刑すべきと主張した。

この老神竜も同じように、マシュリを処刑するべきかもしれないと迷っていた。

しかしそれは、マシュリの存在が罪深いから、ではなく。

マシュリ本人の未来、幸福の為に、そうすべきではないかと考えたのだ。

ここには大きな違いがある。

だが、当時神竜族の長だったこの老神竜は、考えた末に…マシュリを処刑しないことに決めた。

「でも、あんたはマシュリを殺さなかった。そうだろ?」

「そうだ…。当時生まれたばかりの幼子だったマシュリ・カティアを処刑するのは、あまりに不憫だった…」

他の神竜族も、そう思ってくれたら良かったのにな。

「私はあの者の助命を嘆願した。仲間達は強固として反対したものの、結局私の一存であの者は生き延びた…が、そのことが原因で、私は一族から不評を買い、一族の長に相応しくないとして、族長の座を追われることになった…」

「…」

マシュリの処刑に反対したってだけで、何で族長に相応しくないことになるんだよ。

意味分かんねぇ。

とにかく分かるのは、俺達がマシュリに出会うことが出来たのは、この老神竜が自らの立場を悪くしてでも、マシュリの命を救ってくれたからだ、ということだ。

「だが、私の立場などどうでも良い…。私は長く生き過ぎた。これからの時代は、私よりもっと若い者達が継いでいくべきなのだ…」

「…マシュリの心臓を一つ取り上げて、冥界に封印することを決めたのは、あんたなのか?」

「あぁ…そうだ。あの者の処刑を回避する代わりに、仲間達が最低限の条件として提案したのだ…。

マシュリ・カティアが神竜バハムートとして持って生まれた、7つの心臓…。その中の一つを、我々の手で封印する…。

そうすることで、あの者の生殺与奪の権を我々の手で握ろうとしたのだ…。そして、まかり間違っても、あの者が我々神竜族に反旗を翻すことがないように…。

7つの心臓を物質(ものじち)として、我々の手で封印することに決めた…。それが、マシュリ・カティアの処刑を回避する最低限の条件だった…」

…だから、あんたはマシュリの心臓を封印することを良しとしたのか。

心臓を一つ、神竜バハムート族の手で封印することを交換条件に、マシュリの命を救った。

「そして、その封印された心臓を管理する役目を、長の座を退いた私が担うこととなった…」

「それ以来ずっと、ここでマシュリの心臓を守ってたのか」

「あぁ…そうだ。この場所に…誰かが辿り着く日をずっと待ち望んでいた…」

…待ち望んでいた?