めちゃくちゃあっさりしてんな。

てっきり…「貴様らになど渡してなるものか」と抵抗されるもんだと…。

「…本当に?罠じゃないよな?」

心臓を渡す振りをして襲いかかる…なんて卑怯なことはしないよな?

「罠などではない。私がお前達と争う理由など何もない」

そう言われてもな…。

マシュリが神竜形態に『変化』した後、裁きを下すとかいう名目で、現世にやって来た神竜族の長に会ったことがあるが。

いかにも頭が固そうで、「〜であるべき」とか、「〜でなければならない」的なことしか言ってなかった。

神竜族と言えばあの印象が強いから、こうもあっさり…物分かりが良いと、逆に不安になるって言うか…。

…偽物掴まされたりしないよな?

全然信用がない。当たり前だけど。

「あの、いかにも頭の固そうな神竜バハムート族が…。こんなにあっさり封印した心臓を渡そうとするなんて…」

「何か企んでるんじゃねぇの?」

「心臓は返すけど、ここからは出られないオチとかだったら嫌ですね」

それは最悪だな。

封印の守り人、ならぬ守り竜を前に、言いたい放題の俺達である。

しかし、そんな失礼極まりない俺達に、
老神竜は気を悪くすることはなく。

「あの〜…。えっと、あなたはマシュリさんの最後の心臓を、ここで守ってたんですよね?」

恐らく、このメンバーの中で一番礼儀正しくい天音が、そっと質問した。

「あぁ…。そうだ」

「それなのに、そんなにあっさり渡しても良いんですか?その…他のお仲間の神竜族に責められるんじゃ…」

「仲間か…。私はもう、仲間とは思われておらんだろう」

え?

「どういう意味だ…?あんたも神竜バハムート族なんだろ?」

「勿論だ…。私は以前、神竜族の長だった」

まさかの新事実。

この老神竜…。神竜族の族長だったのか?

そりゃ1億年も生きてたら、族長にもなるだろう。

「そ、そうなの…?私達、以前神竜族の族長に会ったことあるけど…」

「今は別の者が…。私よりもっと若い神竜が長になっていると聞く」

そういうことか。

俺達が会ったのは今の族長で、目の前にいるこの老神竜は、前の族長…。

「何で今は族長じゃないんだ?世代交代か」

若い者に席を譲って、自分は引退したのか?

まぁ、引き際は大切だよな。でなきゃ、シルナみたいに、いつまでもダラダラと学院長の座に座り続けることになる。

「羽久が…私に対する風評被害みたいなことを考えてる気がする…」

「はいはい、今は良いから」

大事な話してるところなんだから。後にしてくれ。

「そうではない。…つまらない話だ」

「つまらなくて良いから、聞かせてくれよ」

「…。…本当に大した話ではない。私は…神竜族の長に相応しくないとして、一族を追われたのだ」

えっ。

意外と重い理由だった。

これ、無闇に聞いたらいけないヤツだ。

もう聞いちゃったから、あとには引けないけど。