どいつもこいつも、揃いも揃って、分かってないんじゃないのか。

今頃王宮で、何が行われているのか。

ルーデュニア聖王国の未来が懸かってる…と言っても過言ではないんだぞ。

「未来と言われましても…。人間、未来のことより、今晩の夕飯の献立の方が大事な生き物ですからね。未来のことは、未来になってから心配すれば良いのでは?」

俺の心の中を読んで、ナジュはしれっとそう言った。

あー、はいはい、そうですね。

俺が心配し過ぎなだけだってことだな。はいはい。

勘違いするなよ。俺はルーデュニア聖王国の未来が、と言うより。

フユリ様と共に会談に臨んだ、シルナのことが心配なだけだ。

シルナが無事なら、この際国の命運は後回しに…して良いはずがないけど、二の次で良いよ。

やっぱり、無理して俺も一緒に行けば良かったかなぁ…。

「大丈夫だって。学院長せんせーのことだし、今頃お土産に、チョコ饅頭でも買ってきてるんじゃないかなー?」

「僕はチョコ団子に一票」

心配で胃が痛い俺とは裏腹に、元暗殺者二人は呑気にそう言った。

…チョコ団子って何?そんなのあるの?

いくらシルナと言えども、さすがに国の命運がかかった「会談」の後に、能天気にチョコ菓子を買って帰るような真似は、

…と、思ったその時だった。

「ただいまー。帰ったよー」

「あっ…。シルナ…!」

噂をすれば何とやら。

王宮に行っていたはずのシルナが、学院に戻ってきた。

待ちかねたぞ、シルナ。

「シルナ…お前…」

「え、何?どうかした?」

とりあえず…無事に、無傷で帰ってきたようだな。

それは安心した。

ナツキ様が変な気を起こして、暴力に訴えようとしたらどうなることかと…。

…それどころか。

「お土産に、チョコどら焼き買ってきたよ!皆で食べよー」

俺の心配をよそに、シルナは買ってきたばかりの和菓子屋のデカい紙袋をテーブルに置いた。

おい。ちょっと待てふざけんな。

「どら焼きだって。惜しかったね」

「ニアピンだったねー」

チョコ饅頭とチョコ団子を予測していた二人が、早速真っ先にチョコどら焼きを頬張っていた。

和菓子なのは正解だったな。

シルナにしては珍しい。いつもなら、チョコクリームがこってこての洋菓子を好むのだが。

「いやね、最初はチョコケーキにしようかなーと思ったんだけど、丁度帰り道に和菓子屋さんがあってね」

と、チョコどら焼きを買ってきた経緯を説明し始めた。

誰もそんなこと聞いてないんだが?

「のぼりが立ってたんだよ。名物チョコどら焼きあります!って。それを見てビビッと来たんだよ」

「おい、おいシルナ。そんなことより」

「たまには趣向を変えてみようと思ってね。お店に入って、ありったけのチョコどら焼きを、在庫全部買ってきたんだー」

「こら!話を聞け」

つーか、買い占めはやめろ。他のお客さんに迷惑だろうが。

いつも思うんだけど、何でシルナは毎回毎回、チョコ菓子を大量に買ってくるんだ?

俺達だけで食べるなら、10個もあればお釣りが来るくらいなのに。

余ったら、生徒達と食べようとしているのかもしれない。

チョコ菓子に関しては、底無しの浪費家になるシルナである。

…って、そんなことはどうでも良いんだよ。