な…何だよ?

そこで立ち止まらないでくれ。二人は目が良いから見えるかもしれないが、俺には薄暗くて見えない。

しかし、すぐに俺も、令月達が見つけたものが見えた。

薄ぼんやりした暗闇の中に、松明のような明かりが灯されていた。

あれって…?

洞窟の最奥にあったのは、松明の明かりと、そして…。

「…!あれ…」

「…神竜…バハムート…」

まるで、御神体を守る万人のように。

一匹…いや、一体の竜が、俺達を待ち受けていた。

そして同時に、ようやく分かった。

俺達が『マシュリ』に導かれて、辿り着いたこの洞窟こそ。

目的地であった、竜の祠なのだと。

ということは…ここに、マシュリの7つ目の心臓が…。

「…ここまで辿り着けば、あとは分かりやすいね」

「えっ?」

いつの間にか、令月はランタンの代わりに愛用の小太刀を握り締めていた。

なんか、刀身にべったりと黄色い脂肪が付着してるんだが…。それ、一体何を斬ったんだ?

「あいつを倒せば、心臓もらえるってことでしょ?簡単な話だよねー」

すぐりもまた、得意の糸魔法を両手に絡ませていた。

準備が早いぞ。お前達。

そして血の気が多い。

「ちょっと待って、あの竜…。…よく見て。眠ってない…?」

そんな令月とすぐりを、天音が制止した。

…眠ってる?

確かによくよく見てみると、洞窟の奥には祭壇のようなものが設けられ。

その祭壇を守るように、巨大な一体の竜が寝そべっていた。

その両目は、固く閉じられている。

…あ、本当だ。寝てる…。よく見えたな、天音…。

「…」

何だろう。なんだか拍子抜けだな。

ここぞとばかりに竜が待ち構えてるから、「神聖なる眠りを妨げる者は誰ぞ」と、竜の怒りを受けるものだと思っていたが。

まさかの昼寝中。

「シルナみたいな奴だな…。肝心な時に間抜けで…」

「ちょっ、私に対する風評被害だよ、それは!」

うるせぇ。大声出すな、竜が起きたらどうするんだ。

「まさかだけど、あいつが寝てる間に心臓をちょいっと…拝借するつもりなのか?」

「…戦わずに済むなら、その方が良いんじゃないのか?」

「マジかよ。せっこいこそ泥…」

やめろ、キュレム。言うんじゃない。

セコくても良いんだよ。それでマシュリの心臓を取り戻せるなら。

「完全に空き巣の手口ですね」

「寝てる方が悪い」

盗られたくなかったら、ちゃんと起きて守ってろよ。

遠慮なくもらっていくぞ。俺は。

「…よし、起こさないように、慎重に…」

抜き足差し足忍び足で、祭壇に近づい、



「…来たか。人の子らよ」



突然、洞窟の中に低く重い声が響き。

ただでさえ緊張していた俺の心臓が、びくっと跳ね上がった。