洞窟の入り口が消失し、俺達はナジュの言う通り、前に進むしかなくなった。

…この先、マジで行き止まりだったら…完全にお手上げだよな…。

それでも焦ることなく、騒ぐことなく、比較的に冷静さを保っていられるのは。

隣にシルナがいて、他の仲間達も目の届く範囲にいるからだ。

仲間の存在って偉大だな。

いなかったら発狂してたよ。絶対。

「…静かだな…」

洞窟の中には、俺達の足音しか聞こえない。

暗くて静かで、分かれ道もなく、ただ真っ直ぐ奥に進んでいるだけだ。

「生き物の気配がないのが怖いよな…」

「うん…。でも、ここは洞窟だからまだマシだよ。お墓の中怖かった…」

何やら思い出したのか、ぶるっ、と身を竦ませるシルナ。

…墓?

「本当にな。さっきまで水の中だったから、普通に陸を歩くと変な感じするわ」

大地をしっかり踏み締めるように、変な歩き方をするキュレム。

…水の中?

「そう?僕はむしろ、さっきまでと違って、地下足袋が胃液で溶けないから歩きやすいよ」

ランタンを片手に、軽やかな足取りの令月。

…胃液…?

「そーだね。ここにはホルマリン漬けの瓶とかも落っこちてないしねー」

こちらもランタンを持って、笑顔で軽口を叩くすぐり。

…ホルマリン漬け…?

…なんか、皆してヤバそうなことばっかり言ってんな…。

「ここも生き物の気配、全然しないけど…。この先、何があるのかな」

「さぁな…。…やけにしっかりしてんな、お前。さてはベリーシュに入れ替わってんな?」

「うん。さっきね」

ベリクリーデとジュリスも、何やら意味深な会話してるし…。

…ベリーシュ?

「RPGゲームだと、こういう洞窟は罠がたくさん仕掛けられてるものですけど…。今のところ何もありませんね」

「何でちょっと残念そうなの?ナジュ君…」

「ほら、踏むと巨大な岩が転がってくるトラップとか、壁や地面から槍が生えるトラップとか、ド定番じゃないですか。あれ、見たくないです?」

「僕は見たくないな…。危なそうだし、怪我したら大変だから…」

…ナジュも、天音と楽しげに喋ってるし。

アドベンチャーゲー厶じゃないんだから、そんな分かりやすい洞窟トラップは御免だ。

しかし、あまりにも何もないと…それはそれで不気味だよな。

魔物やトラップに襲われるのは困るが、このまま行き止まりで何もない、というのも非常に困る。

退路絶たれてる訳だから、余計にな。

もう結構歩いてるし、この先に何か隠されているなら、そろそろ姿を現してくれないだろうか。

…と、考えていたその時。

「…何か居るね」

「おっ、ほんとだ」

ランタンを持っていた令月とすぐりが、唐突に足を止めた。