そして。

俺達が『マシュリ』に導かれ、辿り着いたこの場所には。

「…いかにも怪しそうだな」

「意味深ですよね」

改めて俺は、目の前の荘厳な洞窟に視線を向けた。

どうぞ入ってください、と言わんばかり。

『マシュリ』が導いてくれたんだから…きっと、危険な場所ではないと思うけど…。

「もしかして、ここが竜の祠なのかな」

皆が思っていたことを、ベリクリーデが代弁してくれた。

…そうだったら最高だよな。

「分からないよな。入ってみないことには…」

「…行こう。悩んでる時間が惜しい」

シルナがそう言い、皆も頷いた。

「うぇー…。折角巨人の胃の中から脱出したのに、今度は洞窟ですか」

「新しい冒険の始まりだね」

ルイーシュと令月が言った。

…巨人の胃の中、ってどういうこと?

話は後で、帰ってから聞かせてもらおうか。

令月とすぐりの持つランタンを明かりにして、俺達は洞窟に足を踏み入れた。

はぐれている間に、皆が冥界の何処を彷徨っていたのか知らないが。

俺とベリクリーデは、さっきまで古代遺跡みたいなところを探索していたから。

ここから、更に洞窟とは…。何だかハラハラ感が続くな。

さっきまで、変な…ガーゴイル的な魔物に追いかけ回されてたからさ…。

…また追っかけてきたりしないよな?

後ろが気になって、チラッと振り向いてみると。

「えっ…!」

背後を振り返って、俺は思わずぎょっとした。

…嘘だろ?

「ど、どうしたの羽久?」

「シルナ…!う、後ろ…」

「えっ!何?またのっぺらぼう!?」

のっぺらぼうって何?

ちげーよ。そうじゃなくて。

「…なくなってるね」

他の皆も気づいたようだ。

洞窟に入って何歩か歩いて、後ろを振り返ってみると。

そこには、もう洞窟の入り口はなかった。

森の中に繋がっていたはずの入り口は、忽然と何もない空間に変わっていた。

…逃げ道、塞がれたんだけど。

「どっ…。これ、どうするの…?」

「良いじゃないですか。ここから先は、どうあっても迷わずに、ただ前に進めば良いんですから」

ナジュ。お前ポジティブだな。

自分は死なないからって余裕ぶちかましてるのだろうが、俺達の命は有限なんだからな。

つーかここは冥界なんだから、不死身のナジュだってどうなるか分からないんだぞ。

「退路を絶たれたな…。この先、行き止まりだったらどうすりゃ良いんだ…?」

「この出口を塞がれた洞窟で、食人魔族に襲われたらひとたまりもないですね」

…食人魔族?

なんて物騒な…。いくら冥界と言えど、そんな恐ろしい魔物は…。

「…ふっ、羽久さん。あなたは甘いですね」

俺の心を読んだらしいナジュが、そう言った。

「甘いって、何がだよ?」

「今ここにいるメンバーが、ついさっきまで何に追いかけられていたかを知ったら、きっと腰を抜かすでしょうよ」

「…マジかよ…」

皆何かに追いかけられてたのか。そうなのか?

…この後、互いに離れ離れになっている間、実際に皆がどんな目に遭っていたのかを聞いて。

本当に腰を抜かすことになるのだが、それはもう少し先の話である。