な…何?

「い、今の、何…?」

「さ…さぁ。聞き間違い…だったら嬉しいけど、さすがに無理だよな…?」

「…うん、無理だと思う…」

恐る恐る、二人で音のした方を振り向く。

…何もいない。

…ホッ。

「…なーんだ!やっぱり気の所為じゃないか。ったくビビらせやがっ、」

「あっ…」

…居た。

ギョロギョロとした目の、歪に捻じれた生首が。

あまりにもびっくりし過ぎて、声が出なかった。

僕は、声もなく固まってしまったが。

キュレムさんはと言うと、目を真ん丸にして、しばらく時が止まったように生首と見つめ合い、

そして、渾身の叫び声をあげた。

「…ぎゃぁぁぁぁ!ホラー映画みたいな登場すんな!!」

音のした方にバッと視線を向けるも、何もいない。

そのことに安心して視線を戻すと、そこに幽霊がいる…って、確かにホラー映画あるあるの演出だよね。

だけど、これはスクリーンの中の出来事じゃないから。

現実でそのシチュエーションに遭遇すると、怖いとか怯えとか通り越して、声が出なくなるね。

今ここにナジュ君がいたら、きっと冷静に「おっ、面白そうなのが出ましたね〜」とか言いそう。

僕の脳内のナジュ君が、そう言ってるのが聞こえてきたよ。

全然面白くないよ。ナジュ君…。

「な、ななな何なんだあれ!?」

「わ、わわ…分からない…」

一体、何の化け物なのか。

まるで、超巨大な海の竜のようだ。

その巨大な海竜は、水の中をのたうつように蠢いた。

ひぇっ…。グロテスク…。

重い轟音のような呻きをあげながら、蛇の如き体躯をぐねぐねと動かし。

あろうことか、威嚇するかのように牙を剥いた。

何処からどう見ても、完全に捕食態勢ですありがとうございました。

さっきの貝塚に捨てられてた骨って、もしかしてこの魔物が食べた骨…?

だとしたら、僕達も今から、あの骨の山に加えられる可能性が高い。

…逃げなければ。ともかく、何をしても絶対に逃げなくては。

「に、逃げよう、キュレムさん!」

「って、言っても…俺、泳ぎ苦手なんだけど!?」

そういえば、ここ水の中なんだった。

走ろうと思っても、水の中をジタバタもがいているだけで、陸のようには走れない。

ましてや向こうは、泳ぎのエキスパートな訳で。

泳ぎで勝負したって、絶対勝てっこない。

かく言う僕も、それほど泳ぎが得意な訳じゃない。

って言うか、どんなに泳ぎが得意な人でも、さすがに本職の魚類には敵わないよ。

と、するとどうするか…。

「か、隠れながら逃げよう!あの…崩れた瓦礫の裏とか!」

「おぉ、そうか。地の利を活かすんだな。よし、それだ!」

そうと決まれば、一目散。

僕とキュレムさんは、崩れかけた海底都市を隠れながら逃げることにした。