だけど、キュレムさんが悲鳴を上げるのは当然だった。

だって、この白い破片の山…。

「見ろよ、あれ」

「…ひっ…」

破片の中に、半分崩れた、はっきり「それ」と分かる頭蓋骨が、こちらを向いていた。

嘘でしょ、これ…。

この白い破片…もしかして全部…。

「これ、骨だぜ。骨の欠片…」

そ…。…そう、だよね。

打ち捨てられた海底都市なんて、おとぎ話みたいでちょっとロマンティックだなぁと思っていたのに。

ロマンなんて、たった今、一瞬で消え去った。

それどころか、この骨の山の存在だけで、一気にシチュエーションがホラー映画のように…。

そう考えると、途端に、誰かに見られているような嫌な感覚がして、ゾッとした。

き、気の所為だよね…?さすがに…。

思わず、きょろきょろと周囲を見渡した。

幸い、何も見つからなかった。

そ、それは良かったけど…。

ここに来て…骨の山…。

しかも、この大きさ…魚の骨なんかじゃないよ。

この頭蓋骨だって…。ほとんどが原型を留めていないし、異様に太いものや細いものもあって。

この生き物の骨だろう、と断定は出来ない。けど…。

…所々に、明らかに人骨と見られる骨が混じっている。

これでも、回復魔法専門の医療魔導師の端くれとして、それなりの知識を持っている。

その僕が言うんだから、信じてもらえないかな。

これ、人の骨だよ。

人の骨と…人じゃない別の生き物の骨が混ざって、バラバラになって、白い破片の山みたいになってる。

「なんか、昔歴史の授業がなんかで、こんな挿し絵を見たな…」

ボソッと呟くキュレムさん。

「え…?」

「ほら…昔の人がさ、食べた後の貝殻とか、骨とかをまとめて捨ててる場所…」

「あ、えぇっと、貝塚のこと?」

「そう、それそれ。そんな感じじゃね?」 

言われてみれば…そうかも。

昔の人が食べた後の貝殻を捨てたように。

この海底都市に暮らしていた人が、食べた(…?)後の生き物の骨を、ここに捨てたのだろうか。

つまり、ここに人骨が捨ててあるってことは…昔の人は人の肉を食べ、

「…」

「…」

僕もキュレムさんも、同時にその結論に辿り着いて黙り込んだ。

…ちょっと、あんまり、想像したくないね。

…よし、考えないようにしよう。そういうことは。

「…大丈夫だ。例え食人魔族が住んでたとしても、既にここは廃墟都市だから」

「そ、そうだね。今はもう…安全だよね」

歩いてたら餌にされる…とかはないよね?多分…。

周りが死んだように静まり返ってるから、余計心配になってくる…。

「…ん?」

その時、僕はふと思った。

この海底都市の貝塚(?)に、人の骨が捨ててある。

つまり、この海底都市に住んでいた人にとって、人間は…その…餌だったのだろう。

でも、海の底に住んでる食人魔族が、どうやって地上に住んでる人間を捕まえて…餌にしてたんだろう?

陸にいる人が、水中の生き物を捕まえることは可能でも。

その逆…水中に住んでいる者が、陸上の生き物を捕まえるのは難しいのでは…?

人間が水辺に来たところを捕まえて、水中に引き摺り込む…とか?なかなか難しそう。

じゃあやっぱり、さっきキュレムさんが言った通り。

ここに住んでいた人は、水の中に都市を作ったんじゃなくて。

元々地上にあった都市が、何らかの理由で湖の底にしず、



「っ、!?」

「うぉわっ!何だ?」

突如として。

湖の底に、重く低い振動のような轟音が鳴り響いた。