―――――――…その頃、イーニシュフェルト魔導学院では。






「…はぁ…」

「羽久せんせー、まーた溜め息ついてるよ。これで何回?」

「今ので12回」

すぐりの質問に、即座にそう答えた令月(れいげつ)の手元には。

正の字が書かれた半紙と、筆が握られていた。

…何でご丁寧に数えてんだよ。やめろ。

他人の溜め息の数を数えるなんざ、無粋にも程がある。

更に。

「そんなに心配しなくても、大丈夫だと思いますけどね」

「…ナジュ…」

「僕もそう思うよ。学院長先生なら、きっと大丈夫」

「…天音(あまね)…」

教師仲間の二人も、口を揃えて大丈夫だと。

俺が心配し過ぎだって言うのか?そんなことはないだろ。

その証拠に、他の教師仲間は…。

…ん?

「…イレースは何処行った?姿が見えないけど…」

「学院長のことなんてハナから心配せずに、補習授業に行ってますよ」

…さすがイレース。

今頃、ルーデュニア聖王国の未来を揺るがす…かもしれない「会談」が行われているというのに。

補習授業かよ。

イレースはアレだな。大地震が起きても天変地異が起きても、通常通り授業を行ってそうだな。

じゃあ、もう一人…。

…ん?

「…マシュリは?」

あいつも姿が見えないぞ。何処で何をやってる?

「あ、さっき中庭ですれ違ったよ。いろり…猫の姿だったけど」

と、天音が教えてくれた。

「これから猫の集会なんだって。夜までには帰るって」

「あいつ…。猫と人間の二重生活を満喫してやがる…」

人間なのか、猫なのかはっきりしろ。

…皆して、呑気な顔しやがって。

一人で心配している俺が、馬鹿みたいじゃないか。