ドロドロとした胃液の中を、ずんずん歩いていく。

「うわぁ、気持ち悪い…。よく歩けますね、令月さん」

「どうせ溶かされて栄養になるにしても、自分の居る場所くらいは知っておきたいからね」

それに、胃の中に溶け残っているものを見たら。

僕達が、どんな生き物に食べられたのか分かるかもしれない。

胃の中がユーカリの葉っぱばっかりだったら、コアラのお腹の中だって分かるし。

胃の中がチョコレートばっかりだったら、学院長のお腹の中だって分かるでしょ?それと同じで。

この胃の中にあるのは、何の肉か分からない、腐りかけの大きな肉の塊。

豚肉でも牛肉でもなさそうだけど…。これ何の肉だろう?

僕達と同じ、人間の肉か?

「生肉の状態だと、何の肉か分かりませんね…。うぇ、気持ち悪い匂い…」

僕の後ろから、鼻をつまんだルイーシュがついてきた。

「生肉、そのまま食べるんだね」

火を通して食べたら良いのに。そのまま齧りついたのかな。

「しかも、生肉しかないですよ。胃の中」

確かに。

僕とルイーシュも生肉のうちに入るとしたら、確かに生肉だけだね。

野菜も果物もない。肉だけ。

栄養バランスが非常に偏っている。

野菜も食べた方が良いよ。健康の為にも。

ってことは、僕達を食べたのは肉食動物なんだろうか。

冥界の肉食動物…。どんな生き物なんだろうね?

しかも…。

「見てくださいよ、あれ」

「…うん。骨だね」

胃の隅っこの方に、大量の白い塊が溶け残っていた。

脂肪かと思ったけど、あれは骨だ。

溶け残った、大小様々の白い骨が、大量に胃の中に残されていた。

一体何日分の骨なのか、それとも骨の消化には時間が掛かるのか…。

試しに、小さめの骨を選んで拾い上げる。

小さいとはいっても、鶏や豚の骨とは訳が違う。

密度の高い、ずっしりした骨だ。

「なかなか立派な骨だね」

「人間のものですかね?」

「いや、これは人間の骨ではないね」

人間の骨にしては太い。そして大きい。

人間じゃない、多分大型動物の骨だと思う。

頭蓋骨があれば分かりやすいんだけどね。

人間の骨とか臓器には詳しいけど、他の動物のこととなると、分からないや。

「ふーん…。ってことは、魔物の骨ですかね。さながら、冥界の恐竜といったところでしょうか」

その恐竜の胃の中にいるんだから、あんまり他人事ではいられないよ。

「まぁ、何の動物でも構いませんね…。美味しく食べられたんだから、大人しく栄養分になりましょう」

えっ。

「…諦めるの早いね」

このまま、溶かされるのを待つつもりなんだ。

それも一つの手ではある。人間、諦めも大切だからね。