――――――…こちらは、謎の肉壁空間を探索中の僕とルイーシュ。

とにかく上に登ってみよう、と登り坂を上がってみたものの。

心音みたいな音は消えないし、険しかった登り坂はとうとう垂直になって登れないし。

仕方ないから初期位置に戻って、今度は下り坂を降りてみると。

足元に溜まった粘液の水溜りが段々深くなって、地下足袋が溶けてきて歩きにくい。

おまけに、物が腐ったような匂いと、酸っぱいような何とも言えない匂いが重なって、鼻が馬鹿になりそう。

それでもひたすら歩き続け、ようやく広い部屋に辿り着いた。

…けれども。

「…うわぁ…」

これには、ルイーシュもドン引き。

うん。確かに気持ち悪いね。

ドロドロの粘液のプールの中に、消化中の溶けた肉の塊のようなものが、いくつも転がっている。

何の肉なのか分からないけど、溶けかかってて原型を留めていない。

腐った匂いは、あの溶けた肉のせいか。

…もう疑いようがないね。

「この部屋って、やっぱりどう考えても…」

「…一生懸命目を逸らしてきたつもりですが、さすがに無理ですね」

「そうだね」

僕は目を逸らしてないけどね。ずっと、そうじゃないかなって思ってた。

でもルイーシュが「言うな」って言うから、言わなかったけど…。

「…ここ、多分何かの生き物の身体の中だね」

「…そうみたいですね」

何でこんなことになったのか、さっぱり分からないけど。

冥界なんだから、どんなことが起きてもおかしくないよね。

でも、まさか何処の誰かも分からない、魔物のお腹の中に送り込まれるとは。

いつの間に丸呑みされちゃったのかな。

ねちょねちょした酸性の粘液は、多分胃液。

ドクンドクンと定期的に響く重い音は、多分心音。

登り坂を上った先にあった、垂直の井戸の底みたいな場所は…。あれは気管かな。

そして、さながら胃液のプールの中で、ドロドロに溶かされている肉塊。

ここは…胃の中だろうね。多分。

そう考えると、色々と辻褄が合う。

「ここに居たら僕達、あの肉の塊みたいに、消化されるのかな?」

「餌ですか、俺達は。美味しく食べられたんですか」

「僕は美味しくないと思うけど…。…餌になってるのは確かだね」

このままだと、あの肉の塊みたいに。

ドロドロに溶かされて、たんぱく質となって吸収されてしまうかもしれないね。

お腹の中で消化される食べ物って、こんな気持ちなんだ。

初めて知った。なかなか興味深い、新鮮な感覚だね。