…これって、思いがけない収穫なのでは?

ここまでずっと、研究に関する資料はどれもこれも破棄されるか、あるいは朽ちて読めなくなっていた。

でもこのノートは、長らく引き出しの中に入れられて保管されていたお陰か、まだ原型を保っていた。

誰かが、鍵付きの引き出しの中に忘れていったのだろうか?

それとも、わざと…。この引き出しの中に入れて、誰かが見つけてくれることを期待して…。

…まぁ、そこまでは分かりませんけど。

折角研究資料らしきものを手に入れたので、早速開いてみましょうか。

ページが破れないように、僕はそっとノートを開いた。

そこに書かれていた文字は冥界語で、僕には読めなかった。

しかし、ノートには図…と言うか、スケッチが描かれていた。

…何なんだろう。このスケッチ。

檻の中に閉じ込められた、無数の異形の化け物達。

先程見た手術台に乗せられ、四肢を拘束具で繋がれた化け物達。

実験に失敗でもしたのか、既に事切れて横たわった化け物達…。

いずれも特徴的なのは、その化け物達には例外なく、背中に天使のような大きな羽根が、

…その時だった。

「…!何?」

「…何ですか…!?」

広い監禁部屋の奥の方から、深く重い破裂音が響いた。

僕もすぐりさんも、一瞬にして警戒態勢を取った。

誰か、魔物にでも見つかったか。

それとも、本当にすぐりさんが言ったような、実験体の幽霊がで、

…しかし、「それ」は幽霊よりももっと恐ろしいものだった。

部屋の奥から、ぺたり、ぺたり、と音を立てて、「それ」が近づいてきた。

僕もすぐりさんも、思わず目を丸くした。

「それ」は、異形のバケモノだった。

天井に届くほど巨大な体躯。四肢には拘束具を引き摺っているが、既に鎖は切れて、手錠の残骸がぶら下がっているだけだ。

皮膚のない、赤黒い肉体が一步動く度に、血のような黒い液体がぽたり、ぽたりと滴っている。

暗い闇の底がから響くような、重い唸り声をあげて。

神聖なる眠りを侵した僕とすぐりさんを、飛び出したぎょろりした目玉で睨んでいた。

…わーお。

RPGゲームみたいだと思ってましたけど…このモンスターは、もうRPGゲームのそれじゃありませんね。

普通にホラーゲー厶ですね。ありがとうございました。

「…ナジュせんせー、これ、戦ったら勝てるかな?」

この期に及んでも、戦って勝つことを考えているすぐりさん。さすが。

あなたがその気なら、僕も手を貸しましょう…と言いたいところですが。

「さすがに逃げた方が良いんじゃないですかね。相手は魔物ですし」

「あ、そっかー…。変な毒とか持ってても困るもんね。さすがに、冥界の毒については分かんないや」

ですよね。

僕は冥界の毒でも死なない自信がありますが、すぐりさんには有害なので、ここは素直に逃げるが勝ちということで…。

と、冷静に考えていたら。

「ガ…ギ、グォォォォ!!」

痺れを切らした化け物が、雄叫びを上げてこちらに迫ってきた。

おおっと、意外と速く走れるんですね、あなた。デカい図体して。

こうなったら、最早背に腹は代えられない。

僕は手にしていた几帳な研究ノートを放り出して、一目散に走り出した。

すぐりさんも同様である。

三十六計、逃げるに如かずってね。