この研究施設が放棄されてから、既に長い年月が経っているに違いない。

それなのに、この建物の中に漂っている異様な空気は、未だに色褪せていなかった。

むしろ、時間が経つにつれて、どんどん強くなってくる。

「ここに居ちゃいけない」、「ここを見てはいけない」と、本能が必死に訴えかけてきていた。

第六感って奴ですかね。

さすがに僕も、不死身じゃなかったらもう少し警戒してたと思いますよ。

でも、例え何が出てきたとしても、僕は死にませんし。

すぐりさんは命の残機が一つしかありませんけど、いざとなったらすぐさま逃げおおせる、逃げ足の速さだけはピカ一ですし。

まぁ大丈夫でしょう。多分。

そもそも、危険が嫌なら冥界になんて来ませんよ。

「実験どーぶつ、残ってないかなー」

恐れ知らずのすぐりさんは、檻の中を一つ一つ覗いて、被験体の残骸が残っていないか確認していた。

本当に恐れ知らずですね。

それと、被験体の手掛かりは何も残ってないと思いますよ。

この研究施設は、既に長らく放棄されている。

わざわざ無人島に研究施設を作るほど、人に知られたくないヤバい実験をしていたのだ。

研究施設を放棄する際に、この施設で行われていた研究の一切を外部に漏らさないよう。

実験に関する資料の全てを、念入りに証拠隠滅していったはずだ。

壊れた備品の欠片は見つかっても、研究資料らしき紙媒体、またはカルテの類は、一切見つかりませんから。

当然、ここに閉じ込められていたであろう…被験体の皆さんも。

研究施設を破棄する際に、「証拠隠滅」されたはずだ。

…果たして、その時この部屋では、どれほど恐ろしい光景が繰り広げられていたんでしょうね。

お化け出そう。

「うーん。いないなー」

「さすがに残ってないでしょう?」

「この際、お化けでも良いから見つからないかなー」

困りますけどね。お化けの状態で出てこられても。

この場に学院長がいたら、既に腰を抜かしていそう。

「…やれやれ…」

興味津々で、すぐりさんが檻の中を覗いているのを横目に。

僕は、檻の横に並べられた鉄製のワーキングデスクが目に入った。

何気なく、僕はそのデスクに近づいた。

デスクには、いくつかの引き出しがついていた。

大して期待していた訳じゃない。何か入ってたら良いなーくらいの気持ちで、何気なく僕は、その引き出しを開けてみた。

一段目の引き出しには、何も入っていない。

二段目も空っぽ。

でも、最後の三段目の引き出しは。

「…ん?開かない…」

ぐっと引っ張っても、鍵が掛かっているのか、それとも何かが引っ掛かっているのか、引き出しは開かない。

しばらく力を入れて、何度か強く引いてみる。

ガッ、ガッ、と引っ張って、ついに何度目かのチャレンジで、引き出しが壊れて開いた。

済みません。破壊しちゃいました。

そして、その引き出しの中には…。

「…ノート…?」

一冊の、古ぼけたボロボロのノートが入っていた。