更に、瓶詰めホルマリンの他にも。

注射器、ビーカーや試験管の破片、黒いシミがあちこちについた包帯。

錆びたメス、ハサミなどが転がっていた。

これだけ見れば、ギリギリ病院…という線も考えられなくないが。

「うわー、見てよナジュせんせー。これ」

「えぇ。グロいですね」

恐らく、手術室だった場所なのだろう。

その部屋の中央には、半壊した巨大な手術台が置かれていた。

そして何より目を引くのは、その手術台に取り付けられた、非常に頑丈な、鉄製の手錠と足枷。

手術台に乗せられた「患者」が、決して動かないように固定する為の拘束具。

これが、普通の病院の手術室だろうか。

普通の病院なら、手術する時は麻酔をかけるのだから、こんな頑丈な拘束具は必要ないでしょう。

それなのに、こんな拘束具があるということは…。

最早疑いようがない。

「やっぱりここ、何かの実験施設?けんきゅー施設?だったんだね」

「…恐らく、そうですね」

この手術台に乗せられていたのは、「患者」じゃなく「実験体」だったのだろう。

冥界の魔物が、一体何の実験をしていたのか…。

わざわざ、人里離れた無人島に、隠すように建てられた研究施設…。

…うーん。絶対ろくなものじゃないですね。

想像が捗りますよ。…嫌な想像ばかりですけど。

「研究資料みたいなの、残ってないのかなー?」

そうですね。

もし研究資料が残されていたら、ここで行われていた研究が何だったのか、検討もつくというものですが…。

「カルテの残骸…らしきものは落ちてますけどね」

床のあちこちに、紙切れの残骸が散らばっている。

試しに、紙切れの残骸を拾ってみると。

そこに書かれている文字を読む前に、朽ちた紙が粉々になって、ひらひらと手のひらから溢れていった。

…経年劣化が酷くて、紙媒体はどれも全滅ですね。全く読める状態じゃない。

「なーんだ、つまんない」

「仕方ないですよ。相当長い間放置されてたみたいですし」

「そーみたいだね。…おっ、こっちにも広い部屋があるよ」

恐れ知らずのすぐりさんは、ここが研究施設だろうと病院だろうと関係ない。

好奇心の赴くままに、ずんずん進んでいった。

初見のRPGゲームでも、ノーセーブでプレイするタイプですか。スリリングですね。

まぁ、僕達がやってるのはゲー厶じゃないんで。セーブもロードも出来ませんけど。

「うわぁ…。見てよナジュせんせー、ここ」

「今度は何ですか?」

「めっちゃグロい部屋だよ。ほら」

「…うわぁ…」

すぐりさんに案内されて入ってみると、その部屋は…さながら、牢獄の家畜小屋だった。

大きな鉄製の、非常に頑丈な檻がいくつも、いくつも並べられている。

檻の前には、掠れた文字が彫ってあった。

何語なのか分かりませんけど、多分、番号かコードネームか何かを彫ってあるんでしょうね。

この檻に入れられた実験体…被験体の番号なんでしょう。

檻の中にも、巨大な手錠と足枷が、短い鎖に繋がれていた。

うーん。いかにもって感じ。

これは見たくなかったですね。