…猫ちゃん、いや、『マシュリ君』は。

ちらりとこちらを見つめたかと思うと、すぐにタッと走り出した。

そう。そういうこと。

ついてこいって言ってるんだね。分かった。

君の言うことなら、私は信じられる。

「ジュリス君、あっち!あの猫ちゃんについていって…!」

「本気かよ…!?」

「大丈夫。あの子は味方だから…!」

私達を導こうとしてくれてるんだ。正しい方向に。

「…ちっ、分かった。従ってやるよ…!」

ジュリス君は杖を収めて、私と共に『マシュリ君』の後を追いかけた。

ありがとう。信じてくれて。

きっと大丈夫。『マシュリ君』が案内してくれるから…。

だが、後ろからのっぺらぼうお化けが追いかけてきているのも、忘れてはいけない。

魔物に気配はないけれど、何か恐ろしいものが迫ってきているような感覚がして、恐る恐る後ろを振り向いてみると。

「ひっ…!ひえっ…!」

すぐさま、振り向いたことを後悔した。

身体を左右に大きくぐねぐねさせながら、人間とは思えない速さでこちらに迫っていた。

ホラー映画だ。ホラー映画だよこれは。

周囲がお墓だから、余計ホラー映画の舞台。多分、丁度クライマックスの一番盛り上がるシーンのワンカット。

「ほ、ホラー映画だ。リアルホラー映画〜っ!」

「後ろを振り向くな、馬鹿!前だけ向いて走れ!」

「ふ、ふへぁ〜っ!!」

よく、恐怖で足がもつれなかったものだと思う。

やがて『マシュリ君』は、赤黒い時空の裂け目のようなものの前で止まり、こちらを振り向いた。

その仕草で分かった。

その裂け目に飛び込めって。そう言ってるんだね。

「げっ…!ここに入れって言ってるのかよ…!?」

ジュリス君も、『マシュリ君』の意図に気づいたようだ。

一体何処に繋がっているのか。私達には知る由もないけど。

知らない場所に飛び込むのは、なかなか勇気が要るね。

だけど、『マシュリ君』がそうしろと言うなら、私は信じる。

彼が、守る為以外に私達を傷つけたことなんて一度もないのだから。

「行こう、ジュリス君。きっと大丈夫だ」

「っ…!背に腹は代えられないか…!」

このまま走り続けていても遠からず、私が転ぶか、のっぺらぼうさんに追いつかれるかのどちらかだ。

だったら、私は『マシュリ君』を信じる。

きっとその先に、私達の求めているものがあるはずだと。






えいやっ、とばかりに時空の裂け目に飛び込み。

まばゆいほどの光に包まれたかと思うと、その先に見えたのは。

「…ここは…」

植物に覆われた、古い洞窟の入り口だった。