しかも、更に恐ろしいことに。

気の所為だろうか。視界の端で、何かがキラッと光ったように見えた。

恐怖のあまり、神経が尖っているからだろうか。

普段なら見過ごすような小さな変化にも気づいて、いちいち反応してしまう。

一方、(羨ましいことに)全く怯えていないジュリス君は、その変化に気づかなかったようで。

「で?思い当たる節があるなら、今のうちに話し…」

「…!じゅ、ジュリス君、あそこ。あれ」

「…何だよ?」

私はジュリス君の言葉を遮って、震えながら、何かが光った…ように見えた場所を指差した。

「い、今…あそこ、何か居なかった…?」

我ながら、声が震えていた。

「はぁ…?何も居ねぇだろ。あんた、話したくないからって適当なこと言って誤魔化そうとしてんじゃ…」

「ち、違うよ!ジュリス君相手に、そんな卑怯なことはしないよ」

どうしても話したくないことだったら、話したくないからごめんね、って断るよ。

そうじゃなくて、本当に。本当に今…何か光ったような気がしたんだ。

「…?どの辺だ?」

「あ、あそこ。大きい木の陰…!」

「あぁ、あの木か…。柳に似てるが、ここは冥界だから、別の木なんだろうな…」

柳の木って。肝試しの定番みたいな植物じゃないか。

昼間に見ると、長い枝がカーテンみたいに幾重にも重なり合って、なんとも風情のある木なんだけど。

夜中に見ると、お化けが手招きしてるようにしか見えないから不思議。

や、やめてよ…。ただでさえ怯えてるのに、何で冥界に来てまで、柳の木にビビらなきゃいけないの。

「何も居ないと思うけど…。そんなに気になるなら、見てこようか?」

「い、い、良いから!ひ、一人にしないで!私を一人にしないで、一緒にいて」

「あ、そう…。多分気の所為、ん?」

ん?って何?

「じゅ、ジュリス君?どうしたの?」

「いや…。今、何か居たか?」

ちょ、ジュリス君まで。やめてよ。

「わ、私をビビらせようとしても、そ、そ、その手には乗らな、」

「嘘じゃねぇよ。ほら、見てみろ」

ジュリス君に言われて、先程の柳の木を見ると。

…血まみれの白装束を着た、髪の長いのっぺらぼうの女性が、じっとこちらを見ていた。

あっ…。えっと…。

…ど、どうも。

…。

人間、本当にびっくりしたら、固まって声が出ないものだね。

「何だ?あれ…。まさか魔物、」

「で…出たぁぁぁぁぁっ!!」

「うるさっ…!」

冷静に分析しようとする、ジュリス君の鼓膜を破らんばかりに。

私は、渾身の叫び声をあげた。

その場で気絶しなかっただけ、自分を褒めたい。