「しょ、正体の分からないものほど怖いってこと、ない…?」

神様はほら。聖なる神は、確かに恐ろしいけれど。

でも、正体の分からない怖さじゃないから。

「それは分からなくもねぇけど…」

「で、でしょっ?それ、それなんだよ…」

「でも、イーニシュフェルトの聖賢者が幽霊にビビってるかと思うと、やっぱり間抜けだな」

「…」

…ジュリス君って、意外と容赦ないよね。

それだけ心を…私に心を開いてくれているんだと思おう…。

「それに、正体が分からないと言えば…」

「みんな、私をチキンだのビビリだの言うけどね。誰だってお化けは怖いよ。お化けが怖くない訳がな、」

「おい、話を聞けよ」

ほえっ?

「…な、何か言った?ジュリス君」

「正体が分からないと言えば、マシュリを殺った犯人だ」

あ、そうか…。

その件は…未だに解決してないね。

まずはマシュリ君を生き返らせるのが先だから、後回しにしていたけど…。

「あんた、覚えがあるんじゃないのか?」

「え…。何で私?」

「思い当たる節があるんじゃないかと思ったんだよ。あんたなら、俺達が知らないことを知ってても不思議じゃないならな」

うーん…。さすがジュリス君。

結構、的確に私の痛いところを突いてくるよね…。

一番私に歳が近いだけに、容赦も遠慮もない。

でも、私に必要なのは、こういう容赦のない距離感で接してくれる相手なのかもしれないね。

ジュリス君しかり、イレースちゃんしかり…。

「買い被りだね…。私は最初から、神竜バハムート族が犯人だと思ってたし、それが一番辻褄が合うから…」

「でも、神竜族は犯人じゃないんだろ?」

「そうだね」

彼らなら、マシュリ君の心臓が6つしかないことを知っているはずだからね。

マシュリ君の身体に、7回もとどめが刺されていたことに説明がつかない。

つまり、犯人は別にいるのだ。神竜族以外に。

「ケルベロスと人間のキメラで、ついでに神竜バハムートの血を引くあいつを、ああも簡単に倒すことが出来る相手…」

「…」

「ほとんどいないはずだろ。何処の手の者か…。あんたなら、おおよその目星がついてるんじゃないのか」

…。

…そうだね。

羽久とはぐれて、ジュリス君とペアを組むことになった以上。

これは運命なのかもしれないね。

「確かなことは言えないよ。…私だって、思いも寄らないことはあるからね」

「知ってる。可能性の話だ」

「アーリヤット皇国のナツキ様から送られてきた刺客、である可能性もあるし…」

「そうだとしても、マシュリを殺れるくらいなんだから、下手人は限られるだろ」

まぁ、まず滅多にいないだろうね。

あれほど一方的に、マシュリ君を…殺せる人は。

それに…彼の身体に刺さっていた、あの象徴的な剣…。

あの剣、私は何処かで見たことがあっ、

その時、また強い風がビュッと吹いた。

「ふぇぁぁぁ!」

「風が吹く度にビビんなよ…」

だ、だって。

やっぱり怖いものは怖いよ。誰だって。