『マシュリ』が足を止めた、その先にあったのは。

亀裂だった。赤黒い、冥界の『門』と似たような亀裂。

何もない空間を、ナイフで切り裂いたような裂け目。

『マシュリ』は、その亀裂の隣で足を止めた。

あぁ、そう。そういうこと。

この裂け目に飛び込めと。この先に行けと言ってるんだな。

「羽久…!行くの?」

ベリクリーデも気づいたようで、俺の意志を確認してきた。

そうだな。これが罠ではないという保証はない。

でも、背後に迫る魔物との距離は、もう既に一メートルを切っている。

奴らが手を伸ばせば、あっという間に俺は捕まってしまうだろうという距離。

だったらもう、迷っている暇なんてない。

俺はマシュリを信じる。

「行くぞ!」

強くそう叫んで、俺は躊躇わずに次元の裂け目に飛び込んだ。

同じようにベリクリーデも、一切の躊躇なく一緒に裂け目に向かって飛んだ。

ついでに、後ろを追い掛けてきた魔物達も、裂け目に飛び込んでくるかと思ったが。

奴らは裂け目の前で足を止め、それ以上は追ってこなかった。

この場所から出ていくならそれで良い、と言わんばかりに。

もしかしてあの魔物達は、あの遺跡の番人だったのではないだろうか。

俺とベリクリーデを殺す為じゃなくて。

ただ、あの神聖な場所を踏み荒らされたくなくて、俺達を追い返したかっただけなんじゃないだろうか。

ふとそんなことを考えたが、勿論、答え合わせをする方法なんてない。

…それよりも。

「いっ…てぇ…!」

裂け目に飛び込んだ拍子に、受け身を取れずに、そのまま地面にダイブするように転げ落ちた。

頭打った…。いってぇ。

「大丈夫?羽久」

「あ、あぁ…」

俺とは対象的に、ベリクリーデはあの状況でも、綺麗に受け身を取って着地出来たらしく。

こちらに向かって、手を差し伸べてくれた。

俺が間抜けみたいじゃないか。ありがとうな。

…って、そんなことより。

「…!マシュリは…?」

あの『マシュリ』も、裂け目を通ってきたのか?

しかし。

「…何処にもいないね」

「…」

周囲を見渡してみても、先程の『マシュリ』の姿はない。

その代わりに。

蔦や木々を覆われた、暗く深い洞窟の入り口が、俺達の前にあった。

「…この、場所って…」

…もしかして、目的の場所。

竜の祠…なのか?