大きさは、普通の猫と同じくらい。

それなのに、華奢な右半身とは対照的に、左半身が異様に膨れ上がっていた。

その左半身に、子供が殴り書きしたような、雑でボロボロの羽が片方だけ、のりでくっつけたように生えていた。

その魔物の首に…何故か、いろりが普段つけているのと同じ、鈴付きの首輪が嵌まっていた。

魔物は俺達にとって、得体の知れない化け物だけど。

この魔物は、また別次元の異様さだった。

でも、不思議と恐ろしいとは思わない。

だって、その姿はまるで…。

ケルベロスと人間のキメラである、マシュリの姿と同じ…。

「…!マシュリ…」

「えっ?」

「マシュリ…なのか?」

根拠がある訳じゃない。ただ、そんな気がしただけだ。

異形の魔物がこちらを見つめる目に、敵意は一切なかった。

むしろ、俺達を助ける為に現れたように…。

「あれがマシュリ…?本当に?」

ベリクリーデには信じられないようで、訝しんで見ていた。

気持ちは分かるよ。俺だって、確かな証拠はないから。

マシュリはもう死んだのだ。7つ目の心臓を取り戻さない限り、生き返ることはない。

だから、こんなところにマシュリがいるはずがない。…はずがない、のに。

「あっ…」

その『マシュリ』は、しばし俺達をじっと見つめたかと思うと。

祭壇の向こうに、タッと駆け出した。

「マシュリ!まっ…!」

思わず、マシュリと声をかけてしまった。

すると、その『マシュリ』は、俺に応えるように、くるりとこちらを振り向いた。

その目で分かった。

その目で全部分かったよ。

…ついてこいって言ってるんだな。

「…行こう、ベリクリーデ。作戦変更だ」

「どういうこと?逃げるの?」

「あぁ、逃げる。…あの『マシュリ』についていく」

「…そう、分かった」

ベリクリーデは、多くを聞かなかった。

俺の、根拠のない直感を信じてくれた。

「じゃあ、逃げよう。包囲を突破しないと」

「大丈夫だ。マシュリが導いてくれる」

俺とベリクリーデは、こちらを取り囲む魔物達に背を向け、『マシュリ』の後を追って走り出した。

途端、逃がすものかと、取り囲んでいた魔物達がこちらに向かって飛びかかってきた。

うへぁ。やっぱり来るのかよ。

『マシュリ』の後ろを追い掛ける俺とベリクリーデ。…の、後ろを追い掛ける魔物達。

地獄みたいな鬼ごっこの開始である。

こちらとしては、全く笑い事じゃないけどな。

「やべぇ、あいつら足はえぇぞ…!」

「飛んでるからね。人間の私達より速いのは当然だよ」

ベリクリーデの冷静さよ。

でも…!

「追い付かれるぞ、このままじゃ…!」

何処まで逃げるのか。『マシュリ』はタタッと走るばかりで、こちらを振り返らない。

黙ってついてこいってことなんだろう。それは分かるけど、分かるけど…!

背中に段々近づいてくる、魔物達の熱い吐息を感じながら、ベリクリーデのように冷静には走れない。

畜生、今振り返ったらきっと地獄絵図。

後ろを追い掛けてくる魔物達との距離は、あと何メートルだ?

きっと、もう間近に迫っているに違いない。

焦りと恐怖で、思わず足が竦みそうになったその時。

『マシュリ』が、ピタリと足を止めた。