ベリクリーデに背中を押されるようにして、遺跡の祭壇から離れようとした、

その時だった。

「…!ベリクリーデ!」

「…来たね」

気配は、全く感じなかった。

当たり前だ。相手は魔物なのだから。

神聖な場所を侵した侵入者を取り囲むように、現れた魔物達がこちらを睨んでいた。

背中から巨大な羽が生えて、両目と両耳が吊り上がっている。

俺、そんなに魔物には詳しくないから、これが何の種族か分からないが。

マシュリと同じケルベロスや、神竜バハムート族じゃないのは確かだな。

他の魔物に見つかったか。…もしかして、この遺跡を守る番人に目をつけられたか?

「俺達に戦意はない…って、口で言っても理解してくれそうにないな」

「やる気満々だもんね。…どうする?応戦する?」

ベリクリーデはいつの間にか、片手に銀色の剣を握っていた。

その剣…見覚えがある。

アーリヤット皇国との決闘で使ってた剣だよな?

めちゃくちゃ格好良い抜刀術を使ってた…。

「どうしても避けられないなら応戦するが…。出来れば、戦いは避けたい」

「そうだね」

俺達の目的は竜の祠を探すことであり、正体不明の魔物と戦うことではないからだ。

ここで戦っても、無駄な体力と魔力を消費するだけだ。

出来れば戦わずに、平和的にお引取り願いたい。

…でも、果たしてそんな平和主義が通用するだろうか?

魔物達は敵意丸出しの視線を向け、じりじりとこちらとの距離を詰めてきた。

やべぇ。来てるぞ。

…悠長に考えてる暇はないか。

とにもかくにも、この場を切り抜けなければ…。

「…仕方ない、ベリクリーデ。一緒に戦っ…」

と、ベリクリーデの方を振り向いて言いかけた時。

何処からか、耳元で、ちりん、と鈴の音がした。

…え?

ベリクリーデにも聞こえたらしく、彼女も驚いてこちらを見ていた。

「…今、鈴の音が…」

「聞こえたね。何処から?」

「何処からかなんて問題じゃない。今の鈴の音って…」

聞き覚えがある。

今の鈴の音は、普段学院にいる時に、マシュリが…。

マシュリが猫の、いろり形態の時につけている、名前入りの首輪の鈴の音だ。

間違いない。

何でいろりの…いや、マシュリの首輪の鈴の音が、今ここに聞こえ、

ちりん、とまた音がした。

「…!」

反射的に、音のした方に振り返ると。

そこには、俺とベリクリーデを取り囲む羽の生えた魔物達とは違う、異形の魔物がいた。