目の前にいるのが誰なのか、一瞬分からなくなった。

あれ?ベリクリーデ…。…ベリクリーデ、だよな?

なんか、いきなり…気配が変わったような…。

この気配…前にも感じたことがある気がする。

確か、アーリヤット皇国との決闘の時に…。

「えっと…お前、その…」

「君、羽久だね」

「そうだけど…。お前は…ベリクリーデ、だよな…?」

「…いや…。…うん、そうだね」

今、ちょっと悩まなかった?

「合わせておいた方が良いかな。ジュリス以外には、まだ…」

ベリクリーデ(?)は、そっぽを向いてぶつぶつと呟いていた。

合わせるって何?

何でジュリスの名前が出てくるんだ?

「…えーっと…」

俺はなんて言ったら良いんだ?

…どちら様?

「うん。気にしなくて良いよ。私はベリクリーデだから」

いや、そう言われたら気になるだろ。余計に。

「…ベリクリーデなのか?…本当に?」

「本当だよ。大丈夫、気にしないで」

無理だって。気になるわ。

それなのに、ベリクリーデ(?)は。

「それに、状況は把握してる。問題ない」

勝手に、そう決めつけていた。

問題大有りだよ。

「冥界に来てるんだよね。決闘の二回戦で戦ってた子…マシュリっていう神竜バハムートの心臓を取り戻しに」

「そ、そうだけど…」

「さっきまでは普通だったんだけどな…。ジュリスと離れ離れになったからかな。それとも、この場所に何か…」

「…あのー?」

一人でぶつぶつ言うんじゃなくて、俺にも共有してくれないだろうか。

不安になるだろ。

「あぁ、ごめん。聞いてるよ、羽久。何?」

口調変わり過ぎなんだけど。やっぱり別人じゃね?

俺の身体の中に複数の人格が存在するように、ベリクリーデも…。

いや、それとも。もしかして。

「変な魔物に、身体を乗っ取られたとか…?」

幽霊みたいに。憑依されて。

ベリクリーデの身体を乗っ取って、良からぬことを企んでいるのでは。

ここは冥界なのだ。次の瞬間、何が起きたとしても不思議ではない。

「魔物?…ううん、魔物に乗っ取られてなんかいない。私はベリクリーデだよ」

「でも、明らかに俺の知ってるベリクリーデとは別人っぽいんだけど」

「それは気にしなくて良いよ。私の…個性だから」

個性で済ませて良い問題なのか?それって。

だいぶ一大事だと思うんだけど。

しかし。

「それに、君にも個性があるでしょ?君にしかない『個性』が」

「…!それは…」

「同じだよ、君と。…そう答えたら納得してくれるかな」

「…」

納得なんて出来ない…と、言いたいところだったが。

そんな風に説得されたら、何も言い返せないじゃないか。