それで良いと思っていた。

罪の姿には、相応しい末路。

やっぱり、僕には過ぎた幸せだったんだって…。

…だけど、もし我儘を言って良いのなら。

もし、自分の望みを、願いを口にすることが許されるのなら。

本当は、僕は。

「…生きて、いたい」

駄目なのに。こんなことを言っちゃいけないのに。

望んではいけないことなのに。

でも、言葉にしてしまったら、もう本当の気持ちを抑えきれなかった。

「生きていたい…まだ、あの居心地の良い場所で、仲間と一緒に生きていたい。彼らを守りたい…」

彼らの未来も。

…そして、自分の未来も。

「まだ終わりたくない…。スクルト、君が守ってくれた僕の未来を…もっとずっと先に繋げていきたい。君が見た未来の先を、僕もこの目で見たい…!」

「…えぇ、そうね。…そうだわ」

スクルトは、口元に優しい微笑みを浮かべた。

子供の我儘を、笑って許す母親のように。

「まだ終わっちゃいけない。あなたは生きなきゃいけないのよ。それはあなたの望みであり、あなたの仲間達と…私の望みでもあるのだから」

口にしてみると、本当に簡単で、単純。

下らない生存本能。まだ死にたくない。生きていたいという、つまらない望み。

…だけど、僕にとってはとても大切なことだった。

目を逸らさずに…自分の本音と向き合うと。

蓋を開けてみると、僕は自分で思っている以上に、単純だったらしい。

まだ生きていたい。ただそれだけ。

物凄く難しくて、でも単純な望み。

まだ希望が残っているなら、僅かでも可能性か残っているなら、僕は諦めたくない。

僕の仲間達が、誰一人諦めていないように。

僕もまた、生きることを諦めたくなかった。

その為に、僕が出来ることは…。

「…でも、このままだと難しいわ」

「え…」

スクルトは、一転して険しい表情を見せた。

「間に合わないの。竜の祠の有り処も分からないのに、宛もなく冥界を探し回るなんて、あまりにも無謀過ぎる」

「間に合わないって…どういう…」

「このままだと、彼らは現世に帰れない。竜の祠を見つける前に、『門』を開いている召喚魔導師の力が尽きるわ」

「…!」

…そんな。

それじゃあ…このままじゃ、学院長達は…。

僕を生き返らせるどころか、帰り道を失い、一生冥界を彷徨うことになってしまう。

それだけは駄目だ。絶対に。彼らの未来が…。

「その…未来が見えたの?このままじゃ間に合わないって…」

「…えぇ、見えたわ」

スクルトがその未来を「見た」のなら、それはほぼ確実に実現する。

そんな…それじゃ、もう…。

「だけど…これは確定した…『赤い』未来じゃない。『青い』未来なの。だから、まだ希望はあるわ」

「…!本当に?」

「えぇ」

スクルトの見る未来は、『赤』に近いほど確定的な未来で、『青』に近いほど不確定…つまり、これからの行動次第で変えることが出来る未来なのだ。

スクルトは、『門』が閉ざされ学院長達が破滅する未来を見た。

だけど、これはまだ『青い』未来。

このまま放置しているとその通りの未来になるが、今、行動を起こせばその未来を変えることが出来る。

変えなくては。絶対に…彼らの運命を、ここで終わらせてはならない。