どうしてそのことを。

彼らには、一度も話したことなんてなかったのに。…僕の…7つ目の心臓のことは。

知る必要はないことだった。だから言わなかった。

心臓を一つ奪われても、僕の中には6つの心臓が残っていた。

普通の人間は、当然心臓は一つしかない訳で。

それに比べたら僕は、6倍もの数の命のストックを持っていると言っても過言ではない。

6つも命のストックがあれば、滅多に死ぬことはないからと思って、敢えて7つ目の心臓のことを口にしたりはしなかった。

まさか、こんなことになるとは思ってなかった…。

それに、7つ目の心臓のことを彼らに話したからと言って…何も変わらないと思っていた。

だって、僕の最後の心臓は、冥界に封印されているのだ。

神竜族が守る、竜の祠の中に。

どうやったって取りに行けるはずなんてないし、そんなことは不可能だ。

不可能…の、はずだったのに。

こうして、実際に彼らは…冥界に足を踏み入れている。

恐らく…僕の封印された心臓を取り戻す為に。

僕は一言も、封印された心臓のことは話さなかったのに。どうして彼らがそのことを…。

「…!まさか…」

僕の心臓の秘密を知っている人物と言えば。

まさか…リリス様、が?

リリス様は、僕の最後の心臓が冥界に封印されていることを知っている。

リリス様が…ナジュの口を通して、皆に真実を伝えたのだろうか。

そう考えれば、辻褄は合う。

と言うか、彼らが真実を知る術なんて、それ以外に考えられない。

余計なことを、と思ったが…。しかし、リリス様に悪意がないことも分かっている。

彼女もきっと、彼女なりにとても悩んで…覚悟を決めて、真実を口にしたのだろう。

その気持ちが分かるだけに、リリス様を批難することは出来なかった。

…あぁ、でも、なんということを。

竜の祠が何処にあるかなんて、リリス様だって知らないはずなのに。

冥界の何処かに、僕の最後の心臓が封印されていることを知って。

無謀にも、それを探しに来たって言うのか?

その為に、現世の人間にとっては禁足地である冥界にやって来たと言うのか?

命知らずなのか、馬鹿なのか…。

「何で…」

諦めれば良いじゃないか。何でそこまでするんだ。

僕はそんなこと望んでない。

彼らに命の危険を犯してまで、助けて欲しいなんて…生き返らせて欲しいなんて思ってない。

これでもし、仲間達の誰かが冥界で命を落とすことになったら、僕は彼らにどう顔向けすれば良いんだ?

このまま死なせてくれたら良いのに。無理して生き返らせようとなんてしないで。

このまま僕を過去の者にして、忘れてしまえば良いのに…。

「どうして…こんなことを…」

「諦めていないからよ。あなたのこと。あなたの未来を」

スクルトは、僕の問いにそう答えた。

…諦めてない、だって?

当の僕が諦めているというのに…どうして、彼らはまだ、僕を諦めていないんだ?