「…大丈夫ですか、吐月さん…」

「…はい…」

私が声をかけると、吐月さんは頷いてみせた。

しかし、その表情には疲労が滲んでいた。

…当然だ。

契約召喚魔の…ベルフェゴールさんの力を行使して『門』を開くには、大量の魔力と、血の代償が必要だ。

出血量は、かなり抑えてあるはずだ。

それでも、一時間以上に渡って『門』を維持している吐月さんの苦痛、疲労がどれほどのものか。

私には、想像することしか出来ない。

あと、私に出来ることと言えば…。

「…ercovre」

私は杖を振って、魔力と疲労を回復する魔法を、吐月さんにかけた。

「大丈夫ですか?」

「はい…ありがとう。楽になりました」

吐月さんは微笑んで、感謝の言葉を述べた。

…感謝しなければならないのは、私の方です。

私には、このくらいしか出来ないから。

魔法で魔力の回復は出来るけれど、これは一時的な気休めでしかない。

失った魔力を全て回復することは出来ない。

だから、これはあくまで時間稼ぎにしかならないのだ。

多分、あと一時間は持つだろう。

でも、その後は?二時間後、三時間後…。もっと時間が経ったら?

その時、吐月さんは『門』を開く体力と魔力を維持しているだろうか?

その時、学院長先生はマシュリさんの心臓を見つけているだろうか?

…分からない。こればかりは…神様でもない限りは。

でも、私は神になど祈りません。

信じるだけです。…仲間を。

「皆さん…どうか、無事に帰ってきてください…」

私は両手を握り締め、祈った。

神ではなく、仲間達の為に。