こうして、僕とキュレムさんは二人で、冥界海底探索を始めた。

…いや、海の底じゃなくて…湖の底なんだっけ?

こう聞くと何だかファンタジーみたいで、楽しそうだと思われるかもしれないけど。

実際のところは…。

「冥界ってさぁ…。あらゆる魑魅魍魎が跳梁ぼっこしてる場所なんだろ?」

「そうだね…。…跳梁跋扈(ばっこ)だけどね…」

「通じるんだから良いだろ。…海に出てくるバケモノって何だっけ…。…ポセイドン?」

「ポセイドンはバケモノじゃなくて…海の神様だね」

バチが当たりそうだから、バケモノ呼ばわりはやめよう。

「なんか、でっかいタコのバケモノいなかったっけ?」

「えぇっと…。それはイカじゃないかな?クラーケンのこと?」

「おぉ、それだそれ…。何でも一緒だよ、イカでもタコでも神様でも」

さ、さすがに魚介類と神様を同列に語るのはどうかと思うな…。

「クラーケンやポセイドンに出てこられても困るけど…。…魔物一匹、魚一匹姿を見せないんじゃ、逆に気持ち悪いな」

…そうだね。

この湖の底…。生き物の気配が全くないんだ。

魔物もいないし、魚も、貝類も、海藻の一本も生えていない。

生命の息吹が、まるで感じられない。

だからこそ、余計不気味なのだ。

まるで、この海(湖?)の中にいる生き物は、僕とキュレムさんだけになったみたいで…。

海底を漁るように歩いているけど、何も見つからないし…。

「普通ダイビングって言ったらさ、綺麗な珊瑚礁とイソギンチャクと、ウミガメに会ったりさぁ」

「それは…。…普通のダイビングじゃないからね、ここ…」

美しい離島の海とか、外国のダイビングスポットじゃないから。

冥界の、何処とも分からない湖の底だから。

そんな美しい景色は望めない。

「せめて、そう…竜宮城とか見つからねぇかなー」

「結構ロマンチックだね、キュレムさん…」

「夢と妄想でくらい、美女にちやほやされたいと思うことの何が間違ってるんだ?」

いや、間違ってるとは言ってないけど…。

…何だか切なくなってくるから、この話題はやめよう。

「あっ、待てよ、竜宮城は駄目だ。玉手箱を開けたらジジイになるんだった」

そうだね。竜宮城はやめておこう。

「せめて、小魚の一匹でも見つかればね…」

僕達以外の生き物に会ってみたいよね。そうじゃなきゃ、ここがまるで死の海、

「…ん?」

「…あっ…」

僕とキュレムさんは、同時に気づいて声を上げた。

そして、同時に顔を見合わせた。

「あそこ、なんかある…!」

「あ、あれって…!」

僕達は、急いで駆け寄った(と言っても水の中だから、スローモーションみたいな動きになってる)。

そこにあったのは、湖の底に沈んだ…さながら、海底都市。

…の、残骸。

「…これって、ワンチャン竜宮城の可能性、ない?」

キュレムさんの声は、水の中でもはっきり分かるくらい動揺していた。

分かるよ。僕も同じ気持ちだから。

「竜宮城…かもしれないね」

冥界にやって来た僕達が、不思議な湖の底で見つけたのは。

竜の祠でも、海のバケモノでもなく。

打ち捨てられた、海底都市の跡地だった。