笛は、ピーとも鳴らなかった。

息を吹き込む度に、キュレムさんの吐き出した空気がボコボコと、泡になって消えていく。

「ふー。ふー。すー」

キュレムさんは諦めずに、何度も息を吹き込んだが。

やはり、笛は全く鳴らない。ただぶくぶくと泡が出てるだけ。

う、うん。

…まぁ、そうなるよね。

水の中で…リコーダーは吹けないよ。さすがにね…。

「…キュレムさん、キュレムさんってば」

「ふー。すー。すー」

「無理だよ。もう、やめておこう。ね?」

現実を受け止めたくないのは分かるけど。

何回吹いても、無理なものは無理。鳴らないものは鳴りません。

「…役に立たねぇじゃねぇかっ!」

「どうどう…」

ベシッ、と笛を床に叩きつけた…つもりが。

水の中なので、腕の動きは緩慢で、スローモーションで投擲しているようにしか見えない上。

投げつけられた笛は、ふわ〜…と水の中を漂っていた。

うーん…。…凄く間抜けに見えるね…。

「畜生、魔法道具封じか…!?竜族の野郎共、なかなか卑怯なことしてくれるじゃねぇか」

「りゅ、竜族のせいで湖の底に転送された訳じゃないと思うけど…」

「このままじゃ、仲間の位置も分からないまま、海の藻屑エンドだぞ!?どうしてくれるんだ」

こ、怖いことを言わないで。

「死ぬなら、せめて地上で…。お日様のもとで死にたかった…」

「諦めるのはまだ早いよ。水の中から脱出すれば、まだ何とか…」

脱出の方法を考えよう。

二人なら、きっと何とかなるはずだよ。

少なくとも、早々に諦めて、それこそ海の藻屑エンドになるのはやめよう。

「脱出、ねぇ…。簡単に言うけど、脱出の目処は立ってんのか?」

「うっ…」

そ、それは…。

そこを指摘されると辛いけど…。

「…浮上すれば良いんじゃないかな?見たところ、ここ、湖の底みたいだし…。このまま上に浮上すれば、いずれ湖から出られるんじゃ…」

「素人が一番最初に考えそうな作戦だな」

ごめんなさい。

でも、他に思いつかなかったんです。