「お互いパートナーが見つかるまでは、仮の相棒として妥協してください」

「分かった。君で妥協するよ」

だから、君も僕で妥協して欲しい。

「えぇ、宜しくお願いします」

「うん、宜しく」

ここに、一時的な仮のペアを結成。

急ごしらえの付け焼き刃みたいなものだけど、単独行動するよりはマシだね。

「ここで、早速仲間になった令月さんに、残念なお知らせがあるんですが」

「何?残念なお知らせって」

「これです。…もう見ました?」

そう言って、ルイーシュは上着のポケットに入っていたものを取り出して、こちらに見せてくれた。

これって…。さっき、ここに来る前に聖魔騎士団魔導部隊の隊長が僕達に渡した…笛?

吹いたら、仲間のおおまかな居場所が分かるっていう…。

「ここに飛ばされてすぐ、真っ先にこの笛を吹こうとしたんですが…」

「凄いね、覚えてたんだ」

僕、こんな魔法道具の扱いには全く慣れてないから。

ルイーシュに言われるまで、この笛のことは思い出さなかったよ。

自分の足と、自分の手と、自分が持ってきた暗殺非常用持ち出し袋の道具だけで何とかするつもりだった。

でも、今はそんな贅沢言ってられないね。

使えるものは、何でも使わないと。

僕にとっては得体の知れない魔法道具だけど、これを使って仲間の…『八千歳』の居場所が分かるなら…。

…と、思ったけど。

ルイーシュが見せてくれた笛は、火で炙られたように、吹き口が溶けて、歪に歪んでいた。

「…ご覧の有り様です」

「…これ、溶けたの?熱?」

「いえ、熱ではなく…。多分、この気持ち悪い…酸性の粘液のせいだと思います」

さっき、ルイーシュの背中に穴を開けた…このねちょねちょした粘液?

でも…。

「…この粘液って、そんな一瞬で、魔法道具の笛を溶かせるものなの?」

「無理ですね。普通の、市販のホイッスルならまだしも…。これは、シュニィさんが魔力を込めて作った魔法道具です。戦車に押し潰されたって壊れませんよ」

戦車に勝てるの?それ。凄い耐久力だね。

じゃあ、そのシュニィに魔力を込めてもらった鎧を着たら、防御は完璧そうだね。

鎧なんて着たら重くて動きにくいから、僕は着ないけど。

「それなのに、笛はご覧の有り様…。尋常じゃありませんね」

「そうなんだ」

「令月さんの笛は?まだ持ってます?」

僕の?

「持ってるよ」

黒装束の懐から、シュニィにもらった笛を取り出す。

しかし、その笛は、もらった時の姿とはかけ離れていた。

目を疑う、とはこのこと。

僕の笛は、ルイーシュの笛と同じように、一部が溶けてなくなっていた。

…。

…いつの間に?

もらってからずっと、懐に入れておいたはずなのに。

粘液に触れるどころか、外気に触れることさえしていない。

「…僕達、二人して笛、壊しちゃったね。怒られるかな?」

「さぁ…。故意に壊した訳じゃないので、多分許してもらえるでしょう」

「そっか」

帰ったら返すつもりでいたのに、この状態じゃ返せないよ。