背中に穴が開いたまま歩く、っていうのも格好がつかないから。

「縫ってあげようか、服」

「え、令月さんそんなこと出来るんですか?」

「針と糸を使うのは、暗殺スキルの一つだからね」

「うわぁ、器用。俺より遥かに年下なのに、超有能じゃないですか。もう俺要らないのでは?」

そうかな。

「でも、ソーイングセットは持ってるんですか?」

「うん、暗殺非常用持ち出し袋に入ってる」

「準備良いですねー」

備えあれば憂いなし、って奴だね。

風呂敷包みから裁縫道具を取り出して、ルイーシュの背中の穴を縫ってあげた。

何だか布が引き攣れてるけど、穴は塞がった。

「はい、これで良いよ」

「どうも、ありがとうございます。令月さんが居てくれて助かりましたよ」

「どういたしまして」

「…やれやれ、仕方ない。このまま寝ていたら、また服に穴が開くから…。起きますか」

ルイーシュは、ひょいっと立ち上がった。

起きれるんだね。一応。

「はー。立ち上がるのってめちゃくちゃ労力使いますよね。走ったり歩いたりするより、まず立ち上がることに一番体力を消費します」

「おんぶしてあげようか?」

「え、良いんですか?じゃあ遠慮なく…。…と、言いたいところですが」

「やめるの?」

「ここ、天井低いじゃないですか。ここでおんぶされたら、俺の頭が溶けます」

あぁ、確かに。

天井がもう少し高かったら、おんぶしてあげられたのにな。

残念。

「…ところで、令月さん」

「何?」

「あなた、一人なんですか?いつも一緒にいる相方は?」

…『八千歳』のこと?

僕も探してるところなんだよ。『八千歳』。

「分からない。ここに着いた時にははぐれてた」

「へぇ…。それは災難でしたね」

「君こそ、一人なの?いつも一緒にいる相方は?」

「さぁ、分かりません。ここに着いた時にははぐれてました」

「へぇ…。それは災難だったね」

僕達、もしかして似た者同士って奴なのかな。

気が合うね。相方を見失った者同士。

「人の気配は全然しないね。…多分、この近くには居ないんじゃないかな」

「我々の相棒以外の仲間も?学院長とか…」

「うん。近くにはいないと思う」

「うわぁ…。ってことは、今ここにいる二人で何とかするしかないってことですか?」

「そういうことだね」

ルイーシュの、このうんざりした表情。

僕が何とかしてあげられたら良いんだけどね。

「…大丈夫?ここで休んでる?僕、その辺を探してくるよ」

「いえいえ…。探索に行くなら、俺も行きますよ」

「…良いの?」

「一応、俺の方が大人なんでね。さすがにこの状況で、子供に全部任せて胡座をかいてたら、後でキュレムさんにどやされるどころじゃ済みませんし、それに…」

「…それに?」

「俺が付いてるのに、あなたに何かあったら、学院長に一生顔向け出来ないので。そんな面倒臭いことになるくらいだったら、動いた方がマシです」

動かないことによって生じる面倒臭さと、動くことによって生じる面倒臭さを天秤にかけて。

後者の方がまだマシだと判断して、動くことに決めたらしい。 

僕としても、一人より二人の方が効率が上がりそうだから、助かったかな。