―――――――…肌がピリピリと痛む感触がして、僕は目を覚ました。

「…。ここは…?」

周囲を見渡してみたが、薄暗くてよく見えない。

…こんな時こそ。

僕は瞬時に起き上がり、持参した風呂敷包みの中から、愛用のランタンを取り出した。

毎晩の深夜巡回の際にも使っている、優れもの。

ランタンに火を灯し、明かりを掲げて周囲の状況をよく観察してみた。

…ぐにゃりと歪んだ低い天井、壁、床に囲まれている。

どうやら、僕は不思議な空間に閉じ込められているようだ。

…ここが冥界?

何だか気味の悪い場所だね。

壁も天井も床も、踏みつけるとぶよぶよとした感触がして、大変歩きにくい。

おまけに、何やら粘液のようなもので覆われていて、まるでぬかるみを歩いているようだ。

水…じゃないよね。何?この粘液。

試しに、その粘液を指で触ってみた。

ぬめぬめとした感触。

まずは感触を確かめて、それから匂いを嗅いでみた。

…何だか、酸っぱい匂いがするような…。

何処かで嗅いだことのある匂い。決して良い香りではない。

酸っぱくて、何だか生臭い。

おまけにこの粘液、酸性なのか。

指で触った部分が、段々ピリピリとしてきた。

成程、さっき感じたピリピリとした痛みは、この粘液のせいだったのか。

多分毒の類だと思うから、舐めるのはやめておこう。

生臭そうだしね。

「…」

…さて、と。

周囲の状況を確認…したのは良いとして。

ぶよぶよした床や天井や、酸性の粘液や、薄暗い部屋(?)に閉じ込められていることは、とりあえず脇に置くとして。

それより、僕が気になるのは。

「…『八千歳』、何処にいるのかな…」

一緒に冥界の『門』を潜ったはずの、『八千歳』の安否。

これが一番気掛かりだった。

『八千歳』の無事を心配してるんじゃないよ。『八千歳』が誰かに遅れを取るとは思わないなら。

無事なのは分かってるけど、でもはぐれてしまったのは困る。とても困る。

…何処にいるんだろう?

折角二人一組のペアを決めて来たのに、初っ端から引き離されたんじゃ意味ないね。

こんなことなら、ペアなど決めず、最初から単独行動を前提にするべきだったかも。

なんて、今更言ってもどうしようもないか…。

『八千歳』だけじゃない。他の仲間はどうしてるだろう?

僕と『八千歳』みたいに、パートナーと引き離されたんだろうか…?

…と考えながら、僕はランタンを持って、ぶよぶよねちょねちょした床を歩いていった。

すると、不意に人の気配を感じた。

まさか、魔物? 

いや、魔物は気配がないんだっけ。ってことは…。

「…何やってるの?」

「…さぁ。何やってるんでしょう」

その人は、ぶよぶよの床に寝転んで、両腕を組んで頭の下に置いて、枕代わりにして。

ぼんやりと、低い天井を眺めていた。

この人って、確か…。

「聖魔騎士団の…空間魔法の人だね」

「おっと、ご存知でしたか…。不本意ながら、そうです」

「あと、死ぬほど面倒臭がりの人」

「それもご存知でしたか…。全くもってその通りです」

だよね、やっぱり。

名前は確か…ルイーシュって人だっけ。