崩れた壁から、建物の中に侵入。

どうも。お邪魔します。

建物の中は、当然電気なんて通っていない。

暗くて、足元も覚束なかった。

床に穴空いてても気づきませんね。これ。

「懐中電灯とか、持ってくれば良かったですね」

「懐中電灯はないけど、ランタンならあるよ」

おっ?

すぐりさんは、持ってきた風呂敷包みの中からランタンを取り出した。

おぉ。すぐりさん、準備が良い。

「良いもの持ってますね、すぐりさん」

「でしょー?これ、いつも深夜のパトロールの時に使ってるランタン」

あぁ成程。愛用の品でしたか。

懐中電灯じゃなくてランタンってところが、またポイント高いですよね。

懐中電灯だったら、魔法道具の笛と同様、錆びて使い物にならなくなっていたことだろう。

すぐりさんのランタンのお陰で、ぼんやりとだが、視界を確保出来た。

薄暗いけど、これで足元くらいは見えそうですね。

僕はすぐりさんほど夜目が効かないので、心許ないです。

「足元、気をつけないと転びそうですね…」

廊下らしき床には、ありとあらゆるガラスの破片、そして砕けたコンクリートの瓦礫が散乱していた。

紙類の切れ端も散らばっているが、すっかり朽ちてしまって、なんて書いてあるのか読めない。

建物の中には、いくつもの部屋が並んでいた。

窓には、破れたカーテンが垂れ下がっていた。

うーん。雰囲気ある。

「お化けとか、出てきそうですね」

「え。冥界にもお化けなんているの?見てみたいなー」

同感。

僕、まだ幽霊って出会ったことないので。是非会ってみたいですね。

死ぬってどんな感じなのか、是非聞いてみたい。

僕は一生味わえない感覚なので。

人の気配、何ならお化けを探して、しばらく建物を歩いていると。

ふと、足元にとあるモノが転がっていることに気づいた。

「…これって…ビーカー?」

「びーかーって何?」

「知りません?理科の実験とかで使う…」

「あー。試験管のでっかいヤツ?」

試験管とはちょっと違いますが、まぁ、似たようなものです。理科の実験で使うアレですよ。

「ってことは、ここは理科室…?やっぱり学校…?」

「…ナジュせんせー、あれ」

「…!」

割れて使い物ならなくなったビーカーの、数メートル先に。

大小の、注射器のシリンジらしきものがいくつか散らばっていた。

「…学校に、ちゅーしゃきなんてあるかなー?」

「…ないですね」

少なくとも、イーニシュフェルト魔導学院にはないです。

精々、保健室にある天音さんの救急箱の中に、一本か二本入ってるくらい。

大小様々の注射器のシリンジなんて、学校ではお目にかかれないだろう。

ここが医療の専門学校だったら、その限りではないけど。

魔物の医療学校なんてあるとは思えない。

ってことは…ここはやっぱり学校じゃなくて…。

「病院…あるいは、何かの研究施設…?」

「…って感じだねー」

無人島に建設された、秘密の研究所ってところですか。

いやはや、全くわくわくさせてくれるじゃないですか。