き、気づかないで欲しかったけど…やっぱり気づくよねー。さすがに…。

「シルナ・エインリー学院長先生です。彼は聖魔騎士団の代理人として、この場に同席してもらっています」

焦りまくっている私とは裏腹に、フユリ様は落ち着き払った口調で答えた。

「誰の許可を得て?俺は聞いていないぞ」

凄い遠回しに、「お前は出ていけ」って言われてる気がする。

思わず半泣きである。

「ご、ごごごっ…ご、ご心配なく…。私はその、空気。空気ですから。ただこの場にいるだけで…その、口出しはしないので…」

このままじゃ本当に追い出されるかと思って、必死になってそう訴えた。

しかし。

「笑わせる。はっきり言ったらどうだ?…惨めな負け犬の顔を拝みに来ただけだ、と」

ナツキ様は、鼻で笑いながらそう言った。

まっ…まさか。とんでもない。

「そ、そんな…滅相もございません…」

「お前の正体を知ってるぞ。あの女…イーニシュフェルトの里の生き残りに散々、恨み節を聞かされたからな…。虫も殺さぬ顔をして、腹の中では醜いものがとぐろを巻いていると」

「…」

「よくも陽の光のもとを歩けるものだな。面の皮の厚さだけは一人前という訳か?」

…そう言われてしまうと…。

私としては…何も言い返せないって言うか…。

…何も言い返せない。

だって、ナツキさまが言ったことは紛れもない事実だから。

ヴァルシーナちゃんに言われなくても分かる。…それは認めるよ。

ただ、この場に羽久がいなくて良かったなぁと思った。

もし羽久がいたら、この時点でナツキ様と大喧嘩になって、会談どころじゃなかっただろうから。

「伴を連れているのは、そちらも同じでしょう。これ以上彼を侮辱するのはやめてください」

羽久の代わりに、フユリ様が鋭い口調で咎めた。

良いんだけどね。…事実だし。

「…ふん」

ナツキ様は、いかにも不機嫌そうに鼻を鳴らした。

この場に来てくれてる…ってだけでも、充分有り難いから。

私のことくらい、好きに罵ってくれて良いよ。

「…」

「…」

ナツキ様は睨むような視線を向け、フユリ様はその視線から逃れるように、戸惑った様子だった。

非常に…気まずい空気になってしまっている。

え、えぇっと…。これ、私が口を挟む…のは、さすがに良くないよね。

でも、空気を悪くさせちゃったのは私が原因みたいなものだし…。ど、どうしたものか…。

私までおろおろしているのが伝わったのか、フユリ様は意を決したように、ナツキ様を真っ直ぐに見つめた。

「今日は会談に応じてくださって、ありがとうございます。私の勝手な願いを…」

「前置きは良い」

まずはお近づきの印として、丁寧に挨拶を…と切り出したフユリ様だったが。

生憎、ナツキ様には全く通用しないようだった。