葉っぱも枝も全部朽ち果てて、さながらのっぺらぼう状態で、腐りかけた幹だけが傾いている大木。

岩陰にひっそりと生えた、赤ん坊の頭くらいありそうな、平べったい青いキノコ。

花が咲いていると思ったら、教室一つ分くらいの敷地に、地面を覆い尽くさんばかりにびっしりと、大量の棘がついた灰色の花が咲いていた。

木の上に成っているピンポン玉のような木の実からは、腐ったような匂いがしていた。

…うーん。…見るもの全てがグロい。

「暗殺者時代に、一通りのサバイバル知識は教えられたけど…」

グロい葉っぱをポイッと放り投げながら、すぐりさんが言った。

「こんな植物は、どれも見たことがないね」

「僕もですよ」

死んでますもんね、この島。

不気味なくらい静まり返って、聞こえるのは波の音と、風の音だけ。

生き物の息吹は、全く感じられない。

さながらここは、死の島だ。

結構雰囲気あるじゃないですか。ホラー映画の舞台みたいですね。

ってことは、僕達これから、この島のバケモノに襲われる流れですか?

…何が出てくるのか。ちょっと楽しみですね。

「誰かいるかと思ったけど、俺達以外は誰もいそーにないね」

「そうみたいですね」

天音さんや令月さんのみならず。

羽久さんや、学院長の姿も見えない。

あの人達も相棒とはぐれてたりして…。

無事だと良いんですけど。

「これからどーしよっか?やっぱり無人島だから、脱出した方が良いのかなー」

無人島脱出ですか。

自分達でイカダとか作って?…それは面白そうですね。

時間があれば、是非とも無人島脱出ゲームを楽しみたいところだったが…。

「残念ながら、悠長なことをやっている暇はありませんからね」

ここが冥界だから、それとも無人島だからなのか。

目を覚ましてからずっと、胸騒ぎが酷い。

多分、この場所にはあまりいない方が良いんだろう。

ゆっくりと無人島ライフを楽しんでいる余裕はない。

「じゃ、どーするの?」

「…とりあえず、仲間との合流を優先しましょうか」

「どーやって?」

「その為に、これを渡されたんじゃないですか」

「これ?…あぁ、ここに来る時渡された笛かー」

そう、それです。

シュニィさんがを渡してくれた魔法道具。いざとなった時は、この笛で仲間との連絡を取るように、と。

こんな時こそ、この笛の出番。

そう思って、僕はポケットから笛を取り出した。

そして、次の瞬間に驚きのあまり、笛を持ったまま立ち尽くしてしまった。

「…?ナジュせんせー、どーしたの?」

「…すぐりさん。笛が」

「え?…えっ?」

僕が差し出した笛の有り様を見て、すぐりさんも目を見開いていた。

…冥界の『門』を潜る前、ついさっき、渡されたばかりのはずの笛が。

まるで、何十年、何百年と放置されていたかのように、黒く錆びついていた。